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それは私の残像ではなく相棒です⑩

違和感はある。今になってようやくそのことに気が付いた。

しかし、では何が正解なのか? その答えが見つからない。


今の赤上さんは、いや、赤上さんの姿をしている男性は……異世界の魔法を使い、常人ならざる威圧感を発する彼は、俺の知るルナちゃんのプロデューサーではない。


なら、誰だというのか?


「まあ、直接会ったわけでもなし。知らなくても無理ないけどな……ん?」


大仰に肩を落として見せた後、ふてくされた子供の如く、頭の後ろで手を組んだ赤上さんが、何かに気付いた様子で俺の背後の方を見た。


屋上に蹲る俺の後方。即ち、崩れ落ち半壊した階段室の方から、女性のものらしき声が聞こえてきた。


「誰だお前たち! そこで何をしているの!」


聞き覚えのある声だった。

知っている人の声だった。

それは、今日もこの学校で耳にした人の声。


フィリオール先生の、声――


「……まったく。これ以上手間を取らせないでおくれよ」


「っ! 待てサンファ……!!」


先に目撃者の口を封じようというのだろう。伸ばしていた手の標的を瞬時に切り替えたクソイケメン魔術師が、俺の視界から消え去る。その後を、全身を鋭く突き刺す痛みを押し殺しながら、追いかける。


魔法陣を踏みしめる足にこれでもかと力を込める。焼け付いて塞がっている傷口が開き、鮮血が吹き出す。しかし込める力は一切緩めない。


跳ぶ。


残された気力と体力の全てを注ぎ込んだ跳躍は、魔術師の疾駆をも容易く追い越した。

階段室から顔を覗かせている、褐色の肌に黒髪の女性教諭……フィリオール先生に伸ばされる手の前に、俺は躍り出た。


身体が軋むのも構わず、瞬時に急旋回。背後に押し迫る魔術師の手を目掛けて右足を振り抜く。

半ば当てずっぽうに放った横蹴りは、どうにかサンファの手を捉えて弾くことが出来た。


「先生! 早くここから逃げ――っ!?」


そのまま再度身体を反転。状況を理解出来ず固まっているであろうフィリオール先生に向け、庇う様に手を伸ばした、その瞬間だった。


「なーんちゃって♪」


中空に浮かんで手を伸ばした姿勢のまま、俺の身体が硬直したのだ。


――今度は何だっていうんだよ! 


状況を確認するため、唯一動くらしい首を下に向けた俺は、またも言葉を失ってしまう。


『こ、これは……!?』


ディアナが戸惑うのも無理はない。

なぜなら、そこにあるべき俺たちの下半身――正確には、夜色の鎧に包まれた俺の腰から下だが――が、切り取られたようにきれいさっぱり無くなっていたからだ。


痛みは無い。文字通り斬撃によって切断をされたのではない。


見ると、そこ(・・)には光一つない闇があった。


俺の腰元に、漆黒と形容するほかない純黒の渦が纏いつき、俺の下半身を飲み込んでいたのだった。

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