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それは私の残像ではなく相棒です⑨

「やれやれ。もちっと集中しろよ、っと」


「ぐ!? っぎ……!」


混乱が収まらず、先頭に集中しきれない俺の胸中を見抜いているかのように、赤上さんが呟いて右手の指を弾いた。その一瞬ののち、背後に展開された魔法陣から焔の槍が出現し、俺の左腿を貫通する。


赤上さんに穿たれた傷口は、それを成した槍があまりに高温なのか、貫いた瞬間から傷口を焼いて塞いでしまうようだ。それ故に流血は無いが、体力・集中力共に、その傷口からドロドロと抜け落ちていくような感覚を覚える。


「く、そ……」


そして、とうとう俺はその場に膝を付いてしまった。


崩壊した階段室を背にし、肩で息をしながら二人の男性を睨みつける。

疲労が色濃いサンファはともかく、赤上さんは途中参戦なこともあって汗一つかいていない。余裕しゃくしゃくといった様子で俺の視線を受け止めている。


「アーツの眷属がとうとう現れた、って話だったから期待してたんだが……思ったより大したことなかったな。お前がもう少し頑張れば充分だったなぁこりゃ」


「……だから、手出しは不要だと最初から……まあ、いい……」


がっかりした表情で溜め息をついた赤上さんに対し、サンファは呆れ果てた様子で肩を落とすと、神装神衣(しんそうしんい)と呼んでいた変身状態を解除した。元のローブ姿に戻ったクソイケメン魔術師が、肩の荷が下りた様に深く息を吐く。


「では、これでお別れだ、ユーハ君。君の懐の魔晶を回収し、君には死んでもらう」


コツ、コツ、と静寂を取り戻した屋上に、サンファの歩み寄る足音だけが響く。


「く……あ、赤上さん!!」


俺は、傷に響くことも考えず大声を上げていた。


「コレは、この状況は一体どういうことなんですか! あなたは地球人で、魔法が使える筈が無いし! ……それに、それにあなたは、ルナちゃんのプロデューサーじゃないですか!!」


あの素晴らしいアイドルを育てているあなたが、こんなことをするなんて有り得ない。

俺の悲痛な叫びに、近寄るサンファは無表情で何も答えない。が、問われた当人である赤上さんは違った。


「……プ。はは、アハハハハハハ!」


その場で、文字通り腹を抱えて大笑いしているではないか。


大の大人が身をよじりながら、俺たちしかいないとはいえ人目も(はばか)らず大爆笑している。流石に気に障ったのか、サンファも苦虫を嚙み潰したような表情で睨みつけていた。


『な、にを……!?』


目の前の状況が、更に理解出来ない。戸惑うディアナが零した呟きに、笑い過ぎで涙が出たのか、目元を拭った赤上さんが笑顔を向けてくる。


「なー、篠崎君。()を誰だと思ってるんだ?」


「だれ、って……」


「ガワじゃないぞ? 中身の話な。にしても、クク……だーれも気付かないもんだなあ。俺、演技の才能あったのかもな?」


楽しそうに問いかける赤上さんの姿は、俺がここ数日接してきた男性のそれと相違無い、ように見えるが……どこか引っかかる。そうだ。こんなに、流暢だっただろうか? ころころと言葉や表情を変え、こんなにも自然体に話す人だったろうか?


今の赤上さんには、先日言葉を交わした時のような、不安定さというか、感情の急激な変化が無い。

その言動が、思考と行動とが、一貫しているように見えるのだ。


そう、まるで、演じていた誰かという役を脱ぎ捨てて、素の自分を表に出しているかのように。

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