それは私の残像ではなく相棒です⑥
「小っ、癪なぁぁぁぁッ!!」
二方向から迫る夜色の波動に、サンファは赤銅の両腕を立てるように構えた。その右腕に俺の放った波動が、左腕にディアナの放った波動が衝突し、凄まじい衝撃を周囲に撒き散らす。
夜色と赤銅の威力が拮抗する中、その両腕を覆う溶岩部分にサンファの魔素が集中し、構成する魔素の密度が増していく。
防御の魔法を発動する間が無かったが故の、盾代わりのつもりなのだろうが、いくら神位の力を宿しているからと言って、ただ魔素を込めただけの腕で防げるほどヤワな攻撃じゃない。
それが証拠に、視線の先、サンファの構える両腕は徐々に押し込まれていた。この状況になっても防御、あるいは迎撃の魔法を発動しないのは、眼前の攻撃を防ぐので精一杯なのか。
サンファの両腕が押し込まれ、波動同士が互いの距離を近付けるのに応じて、二つの心技に込められた心素が、互いに共鳴し響き合っているのを肌で感じる。
もう少しで波動同士が接する。そうなれば、心技に込められた心素が炸裂し、途轍もない爆発が起こるだろう。校舎が吹き飛ぶ……まではいかないかもしれないが、屋上は当分封鎖されるくらいには崩壊すると思う。それが分かっているからこそ、サンファも決死に振り払おうとしているのだ。
俺はその様子を、ソウルドライブへの心素放出を続けながら固唾を呑んで見守っていた。体力は限界に近く、今にも膝を付きそうな程に消耗している。ディアナもまた、心技の維持に全力なのが、生命回路を通して伝わってくる。
『イケるぞ、気張れガキ!!』
ハーシュノイズの激励が耳に届くが、とてもじゃないけど、それに返答する余裕すらない。
頼む……これで決まってくれ……!
そんな俺の想いが伝わったのか、サンファの右腕。俺の放った波動を受け止めている方の溶岩に、ピシ、という音と共に亀裂が入った。
俺とサンファの目が、互いに異なる意味を込めて見開かれる。
そして、
「い、っけぇぇえええ――!!」
「お、のれ……ぇ!!」
ここ一番の気迫を込めて両者が叫んだ。
その、瞬間。
「っ!?」『なんだッ!?』
後から聞いたことだが、そこに飛来したモノを、ディアナとハーシュノイズだけが気付いていた。
意識を集中させ切っていた俺とサンファの両方が、唐突に訪れた横槍を察知出来なかった。
視界の外、いや、意識の外から前触れなく出現したのは、一見しただけで術者が並みの魔術師では無いと分かるほどに高密度の魔素で形成された、焔の槍。
一筋の光の線となって飛来した槍が、俺の放った夜色の波動……今まさにサンファの赤銅の防壁を打ち破らんとしているソウルドライブに横から突き刺さり、爆ぜた。
「な、ん、だっ!?」
「――ちぃッ!!」
その時初めて槍の出現に気付いた俺とサンファだったが、既に遅かった。
焔の槍は俺の放った方の波動と相殺して霧散し、サンファは残されたもう一つの波動を受け止める腕に集中して魔素を集め……溶岩の腕で夜色の波動を握り潰していた。




