それは私の残像ではなく相棒です③
「ああ……本気、だ……っ!」
『マスター、心魂奏者の肩口を!』
ハーシュノイズの問いに答えながら、虚突曜進を発動。無数に放たれる熱線や石柱を跳ね除けながら、サンファと左肩ですれ違う形で赤銅の掌底を避ける。
「あいつの……表情を見ろ……!」
回避に成功したとはいえ、一瞬たりとも集中を緩めることなど許されない。ゆらりと向き直るサンファを捉え続けたまま、俺はハーシュノイズへ呼びかける。
「あの険しいカオ……きっと、あの姿はサンファにとっても限界を超えた力なんだ……! ずっと使い続けることは難しいはず……だけど、攻められ続けたら不利なのは俺たちの方だ……!」
『だから、こっちから攻めて先に消耗させるッてーのか? 猛攻をやり過ごすのが精一杯で、反撃も出来てねェ中で!』
幽霊の神位魔術師が叫ぶと同時、視線の向こうで、赤銅を纏う魔術師が腰を沈めたのが見えた。
跳躍による接近かと身構えるが、魔素が集束する箇所が下半身ではない。
その異変を察した直後。鋭く細められたサンファの視線の先、虚空の一点に、赤銅の魔素が急速に集うことに気付いた。
アレは、まずい。
回避する射線も無くす、視界全てを覆うレベルの攻撃が来る。
「ディアナ!」
『はい、マスター!』
右足に心素を込める。
全身に宿る夜色の粒子を、最低限の防御力と機動力のみに残し、それ以外の全てを右足に集中。
今や全身に広がっている痛みを押し殺し、サンファに向かって地を蹴った。
「……天裂灼咬……!!」
その瞬間、赤銅を纏う魔術師の鼻先の一点から、極太の熱線が放出された。
先程まで追撃や牽制に使われていたものに似た、しかし規模が遥かに上回る極大量の魔力の奔流。獣の牙の如き様相を呈した熱線が、向かう先の空気全てを灼き、噛み砕きながら向かって来た。
夜の帳が下りていた高校の敷地内が、あたかも昼日中の如く輝きに満たされる。
唯一残された黒点たる俺の右足で、集約した心素が一定に達する。
ここで全てを出し切ってもいい。そんな気概を込め、相棒と声を合わせて右足を振り抜く。
「『交錯する勇気!!』」
桜色のラインで縁取られた夜色の波動が、十字の奇跡を描いて赤銅の牙と激突する。
ソウルドライブ。今の俺たちに出来る最大最強の攻撃技。
波動と熱線は、バチバチと雷にも似た閃光を散らして拮抗し、周囲の空気を震わせる。




