それは私の残像ではなく相棒です②
空気が熱い。気のせいなんかじゃなかった。
冷や汗ではなく、高温により湧き出た汗が、夜色の鎧の下、俺の頬を伝う。
あいつが纏う、紅蓮と琥珀を混ぜたような赤銅の魔素が、空気を侵して熱を伝えていたのだ。
『ンなバカな……! アレは、アレは炎闘神の……!』
ハーシュノイズもまた、サンファの変貌に驚きを隠せない様子だ。
陽はとうに落ちているというのに、急激に熱された空気による陽炎で、周囲の風景が歪んで見える。
そのせいなのか、膨大に過ぎる魔素の扱いに懸命なのか、先程までより更に険しい表情を作る魔術師が、再び屋上の床面を蹴った。
「ハ、アアアアアアァァァァッ!!!」
いつの間にか杖は握っておらず、何かの魔法で、サンファの背にピタリと張り付いている。
全力の気迫で振るわれたのは、先刻と同じ、灼熱の拳だった。
今なお引かない脇腹の痛みに耐えながら、俺は努めて冷静にバックステップした。
標的を外した拳が目の前の床に振り下ろされ、砕けた破片が宙を舞う。
――その頭上に、夜闇を斬り払うような赤銅の光が迫る。
視線を向けるより早く、反射的に身を捻った。その直後、一瞬前まで俺のいた空中を、溶岩の尾が強烈に打ち据えた。着弾した校舎が震え、一撃目の拳よりも遥かに大量の破片が舞い上がり、衝撃で俺の身体までもが吹き飛ばされる。
回避のためのステップから着地するまでの僅かな隙を狙い撃った、豪快かつ抜け目ない二撃目。
……痛みに耐える時間すらくれないってか!
吹っ飛ばされた姿勢を空中で展開した魔法陣で修正しながら、深く呼吸をする。
熱された空気が肺に押し込まれ、軽く咳き込んでしまった。呼吸を落ち着けることもままならない。
長期戦になったら、間違いなく先に消耗するのは俺たちの方だ。
それでも僅かに落ち着いた意識で、赤銅の神威を纏う魔術師を見る。
「……勝機があるとするなら。攻めるしかない、よな」
姿勢を正し身構えた俺を見据えると共に、赤銅の魔素から成る魔法陣が、サンファの背後に展開される。同時に、俺の足元にも。
一瞬の遅れも無く同時に放たれる熱線と焔を纏う石柱を回避しながら、駆け寄るサンファの表情を俺は観察し続けた。
『ガキ。本気で言ッてんのか』
そんな中、未だ変わらずに、驚きを込めた声音でハーシュノイズが問いかけてくる。
『アレは……あの野郎が纏ッているのは、紛れもなく炎闘神アースガルズの魔素だ。通常、有り得っこねェ。神位魔術師が受けることの出来る神の加護は一つきり。例外は無ェ……いや、無ェ、筈だった』
赤銅の両手を組んで、サンファが勢いよく腕を打ち下ろしてくる。叩きつけそのものと、空気に伝わる衝撃はどうにか回避出来たが、無数に狙い撃たれる熱線が、石柱が回避しきれない。腕と腿の一部が削り取られる。
『どういう手を使ッたのか分からねェが、今の野郎は、俺よりも、あの天壌紅蓮よりも強いかもしれねェ。もしかすれば、それこそ神そのものに匹敵するんじゃねェかって程のレベルに達してやがる……そんな奴相手に、自分から攻めると、テメェは本気でそう言ッてんのか?』




