それは私の残像ではなく相棒です①
「累乗加重・碩!」
「ぐ、っう……!?」
杖の打撃と魔法が攻め立てる雨あられの中、サンファが唱えた式句に伴い、俺の身体が鉛のように重くなった。服を着たまま泳いでいるかのような抵抗感に、猛攻を捌くキレが削がれる。
加速度的に増す重量。動きの鈍った俺を杖や魔法で狙い撃つのかと思いきや、サンファの取った行動は、そのどちらとも違った。
「お……お、おおおおおおおおッ……!!」
杖を握っていない方、左の拳を高く上段で振りかぶった姿勢のまま、ギリギリと拳に力を込めている。ゲームで言うなら溜め……チャージでもしているような状態だろうか。
動きが緩慢になった俺は、いつ振り抜かれるか分からない拳に警戒しながらも、意識の大部分を超重力の脱出に向ける。恐らくは、虚突曜進のような突進力ある心技を使えば振り払えるはず――
結論と同時、すぐさま心技の発動に移ろうかと思った矢先、重力の制限を受ける四肢に向けていた視界の端に、眩しく光る何かがちろりと揺らめくのが見えた。
そこに見えたのは……赤々と燃え盛る火炎を纏った、サンファの左拳。
「――ハアッ!!」
俺がそれを認識すると同時、その身を構成する岩石の上に、灼熱を宿した拳が撃ち出される。
「っ、ディアナ!」
『はい!』
「『虚突曜進!!』」
全身を拘束する重力を振り払うべく、夜色の波動を放出し、真横へ向かって跳躍する。予想した通り、全身に掛かっていた重力魔法は心技の効果で大幅に威力を削がれ、取り戻した機動力でその場を離れようとする。
しかし、心技の発動より一拍早く放たれたサンファの左ストレートが、俺の左脇腹を僅かに掠めた。
「く……っ!」
ジュ、と肉が焼ける音が聞こえ、比喩ではなく焼け付く激痛に顔をしかめる。
思いっきり奥歯を噛み締めて痛みに耐えた俺は、そのままサンファから数メートル離れたところで旋回し、向き直ってその異変を視界に納める。
『あ、れは――!』
ディアナが驚くのも無理はない。俺も、必死に耐えるべき痛みが無ければそうしていただろう。
サンファの四肢が、溶岩を纏っていた。
純粋な炎ではない。地球で言うマグマと同じ、流動する焼けた大地。
それがトカゲの鱗のように、ヒビ割れた紋様となって、サンファの四肢を覆っている。
肘から先の腕と、膝から下の脚部分以外は、先程までと同じ砂塵や岩石で構成されたままだが、顔面には刀傷にも似た幾つかの焔の筋が通っている。極め付けに、腰の辺りから、四肢を覆うのと同じ溶岩が、龍の尾のような形で付き従っていた。
そして、そのどれもが……紅蓮にも似た、赤銅色で赤々とした炎を纏っていた。




