目が見えなくては生活も出来ない⑨
一瞬、視界からサンファの姿が消え失せた。
その事実に、刹那より短い僅かな時間、全身が膠着する。
その隙を縫うように、目と鼻の先程の近距離に、再び杖を振りかぶるサンファの姿が現れた。
「く――がっ!?」
今度は回避が間に合わなかった。
俺の右側から振り抜かれた杖が、尋常でない膂力を伴って腕を押し潰す。
狙われた右手に握っていた魔晶を、かろうじて懐に納めるも、直撃を受けた身体が吹っ飛んだ。
背後の階段室に衝突。鉄筋コンクリート造の壁が砕け、室内に仰向けに倒れ込む。
『マスター!!』
『起きろ、ガキ! 追撃だ!!』
ディアナとハーシュノイズの言葉の通り、舞い上がった砂煙を振り払って、杖を刺突の形で構えるサンファの姿が現れた。
鈍痛訴える身体を鞭打ち、バック転の要領で体を起こす。直後、俺の心臓があった位置を寸分違わず、地属性の魔力満ちる槍が貫いた。一切の反発が無いかのように、校舎の床に容易く穴が開く。
今、だ!
「う、おおおぉっ!」
夜色の魔法陣を足裏に展開させると、俺は真正面からサンファへ向かって突っ込んだ。
一メートルも離れていない空間を、速度を目いっぱいに上げた魔法陣で跳躍。魔術師に向かって一気に肉薄する。
俺の意を察した相棒と呼吸を合わせ、右足に心素を集中させる。
「『黒刺夢槍!!』」
「!」
超々至近距離で振り抜いた右足から、槍の形をした夜色の波動が放たれた。波動は過たずサンファへと向かい、一瞬ののち、夜の闇に轟音が鳴り響く。直撃を受けたサンファの身体が、屋上へと押し出された。
「前は関係ないって言ったけど……お前、いったい何が目的なんだ!」
杖を構えて防御の姿勢を見せるサンファに向かい、俺は声を張り上げる。
……エーテルリンクでの決戦の後、スプリングロードゥナはサンファの目的を問い質そうとした。
話が長引きそうな空気を察した俺は、無関係の被害者であることを笠に着てそれを制し、このクソイケメン魔術師が色々と暗躍したのはどうしてなのか、知らないままだった。
あの時はそれでもよかった。ルナちゃんの初ライブに間に合うなら、ディアナ達と一緒に参加出来るなら、それでよかった。
でも、今はそうじゃない。
「お前がどうして地球人の心素を集めるのか。天空神を捜してるのか。今の俺は見過ごせないんだ……エーテルリンクで開催予定の、空に輝けの全国ツアーに係わる部分があるならな!!」
サンファは、エーテルリンク中の人間に精神操作までかけていた。彼ら彼女らの中には、マリーネの人たちのように、既にディアナやアイリスのファンになってくれた人たちだっているんだ。
それはもう、俺と志を同じくする同志と言っても差し支えない。
そんな人たちに危害を加える可能性があるなら……お前の動向は無視出来ないんだ。




