目が見えなくては生活も出来ない⑧
今、対峙しているサンファから醸し出されている雰囲気は、あの時のそれとぴったり一致する。
つまり――
「っ!」
再び、俺の足元に何の前触れも無く魔素が集束する。
直感に従って、さっきのように頭上に飛び上がるのではなく、咄嗟に前方へ駆け出した。先程よりも遥かに長大な石の槍が、俺の元居た空間と、更にその上空を突き刺し現れる。
徒競走のスタートを切るような前傾姿勢で回避する俺の目に映るのは、地属性と思われる魔素を杖に纏わせ、大きく振りかぶる魔術師の姿。
……思った通りじゃないか!
一かけらの加減も無いと分かる勢いで杖が振り下ろされる瞬間、展開した魔法陣を蹴る。
脳天目掛けて迫る打撃を肩から背へと掠りながら、どうにか直撃を避け、サンファの背後へと回り込むことに成功した。標的を僅かに外した杖が床面へ叩き付けられ、一瞬校舎全体を大きく揺さぶる。
彼我の位置が入れ替わって、再度お互いを睨み合った。
冷や汗が頬を伝うのが分かった。一瞬の緩みも命取りになる。神経を尖らせることを強いられる。
本気の、殺意だ。
「やっぱり、嘘だった。殺す気満々だもんな、お前」
「……そりゃ、そうさ。天空神にも、君自身にも、僕は辛酸を舐めさせられているのだから」
ゆらり、とサンファが杖を構え直した。
その杖から、杖を持つ手、そしてサンファの全身へと、高密度の魔素が伝わり、充実していくのが見える。校舎の屋上だというのに、どこからともなく舞い上がった砂塵が、クソイケメン魔術師の身体を取り巻き始めた。
「出し惜しみは無しだ。君を殺し、天空神を渡してもらう……そして」
サンファの覚悟を表しているかのように、研ぎ澄まされ、洗練された魔素が行き渡っていく。
石の槍なんかとは比にならない。スプリングロードゥナやサンファ自身が放った、ソウルドライブに匹敵する程の絶大量の魔素が、魔術師の体一つに凝縮される。
『マスター、警戒を! 並みの魔力量ではありません!』
『来るぞ……そのカッコを解くんじゃねェぞガキ!』
二人の警戒が耳に届くと、ほとんど同時に。
「神装神衣――」
一節の呟きと共に、琥珀の光が輝いた。
見た。その光と共に、周囲を取り巻いていた石や砂がサンファの身体に集中するのを。
そして……光が失せた途端、ただでさえ張りつめていた空気を押し潰すかのように、重厚な威圧感を伴った魔術師が姿を現す。
その全身を構成するは、肉ではなく大地そのもの。
「――心魂奏者」
どこかで感じた覚えのある圧力を漲らせた魔術師が、跳躍した。




