目が見えなくては生活も出来ない⑤
光の帯を辿り始めて、一時間後。
「……町の端まで来たと思ったら、また曲がってやがる」
『今度はどちらの方へ?』
「また直角に曲がって……あっちかな」
方向を変えた帯を追い、辿り始めてから計二時間後。
「反対側の町はずれまで来ちゃったんですけど……まだ終わりじゃないのかよ、ハーシュノイズ」
『オレに言われてもどォしようもねェよ。オラ、歩いた歩いた』
「クソ、こういう時はふよふよ浮いてるのが羨ましく思える……」
……辿り始めてから、三時間後。
「夜なんですけどぉ!? 何考えてんだ天空神とかいうヤツは! ぐねぐねぐねぐね町中を練り歩きやがって! 捜す側の身にもなれってーの!!」
『オイ、まだ続いてやがんのか? その帯ッてのは』
「続いていやがりますよ! ご丁寧に同じところは二度と通ってないし、今いる地点の近くに別の帯があっても、裏側っていうかパッと見じゃ分かんないとこにあるしさ!」
『時刻は午後九時ですね。どうされますか、マスター?』
「……もうちょい行って果てが見えなさそうなら帰る」
『イヤ帰るじゃねェよ! 今日も一日無駄にするつもりかテメェ!』
「無駄にしたくてしてんじゃないわ! えらく回りくどいカミサマのせいじゃないですかねー!」
『ンだとォ!?』
『お、お二人とも、落ち着いてください……!』
長時間の捜索を狙って引き起こしているかのような光の帯の不親切さに耐え兼ね、売り言葉に買い言葉でハーシュノイズと口論になってしまう。戸惑いつつも諫めてくれる相棒の言葉に、口を尖らせながらも押し黙った。
「……とにかく、もうちょっと行ってみよう」
『はい。きっと、もうすぐですよ』
「ん。そうだといい、な……って、マジで終わりそうかも」
長らく付き合わされているのは同じだろうに、健気に励ましてくれるディアナに応じつつ、再び帯に視線を戻す。すると、道ばかりを通っていた今までとは異なり、どこかの敷地内に入っていくような経路をとっているではないか。
これはいよいよ、この長時間労働の終わりが見えたかもしれない。やや軽くなった足取りで帯の消えていく先に向かうと、そこは。
『なんだ。オマエの学舎じゃねェか、ガキ』
「……そんなオチってないだろ……」
……町中をひたすら行ったり来たり歩かされた挙句、スタート地点の商店街から徒歩二十分くらいの学校がゴールなのかよ!! なんで無駄に歩かせたんだよ!? 真っ直ぐ来たらすぐに終わったじゃんか!!
『クソ狐野郎どもの追手を警戒したのかもな。オラ、もうすぐなんだろ。地面見てねェで歩け』
『もうひと踏ん張りですよ、マスター』
「……絶対文句言ってやる……天空神め……」
色んな意味で途轍もない疲労を感じてきた身体に鞭打ち、俺は通い慣れた校舎へと向き直る。




