相棒って本当に頼りになる③
そんな反則じみた運動能力を使える今の俺なら、多少の外敵をさっといなして先に進むことも、ルナちゃんのライブで予想される激しいコールを貫徹することも楽勝――
「――っととっ?」
魔獣を容易くかわした調子のまま歩を進めようとした矢先、一瞬視界がブラックアウトした。軽く眩暈を起こしたらしい。跳躍するスピードを少し緩め、暗転した視界の回復に努める。
幸い、そう時間をおかずに眩暈は去って行った。
「ふぅ……危ないところだった」
今の隙に魔獣に襲われていたら手こずったかもしれない。周囲に魔獣がいない状況下でよかった。
ほっと胸をなでおろし、さあ先を急ぐかと気合を入れ直す。
が、そんな気概をディアナが制止した。
『お待ちくださいマスター』
「どうした? また魔獣か?」
『いいえ、接敵報告ではありません。現在マスターの心素循環効率が、平常時の六割近くにまで低下しています。一度睡眠をとり、心身の回復を図るべきです』
えっすげーな。そんなことまでわかんのディアナさん。
月神舞踏のすごいところその三だな。心素の様子を通して俺の体調フォローまでばっちり。
……つまり、お疲れのようなので一度休んではどうですか、ということか。
さっきの眩暈もそのせいだろう。
確かに、トレイユ城の客間で少しは眠ろうと思ったら、胡散臭い魔術師に絡まれてそれも叶わなかったしな。昨日エーテルリンクに召喚されてから、実質まともな休息は取れていなかった。
眩暈が去ってからもロースピードで空中移動は続けていて、今のところ疲れを実感するほどではないのだが、ここいらで休むべきなのかな。
進行方向に新たな山頂が近づくと、ディアナがほぼ直角に思える部分の山肌を指し示した。
『あそこに穴を掘り、一時的な休息ポイントといたしましょう。切り立った岩壁であれば魔獣の侵入も防げますので、充分な静養が取れるはずです』
ディアナの口調はビジネスライクではあるが、どこかこちらを気遣っているような心根を感じさせる。
事実、俺が眩暈を起こしたところを心配しての提案なのだから、ここは素直に休憩するとしよう。
「……そうだな。そうしようか」
『はい。そうしましょう』
こちらの言葉をほとんどなぞったような物言いに笑みを浮かべつつ、俺は切り立った山肌に向かって高度を下げた。
高層ビルにすれば七〇〇階はありそうな崖の、六五〇階くらいの高さのところでぴたりと制止する。
右足に集中。心素が蓄積されるのを感じる。
一定量まで充填されたのを認識し、定型句を唱えながら思い切り振り上げる。
「闇夜神路!」
振り上げた右足の軌跡から夜色の波動が放たれ、岩壁に激突した。
ガラガラと岩が崩れ去ると、それなりに大きな穴がぽっかりと口を開いていた。




