目が見えなくては生活も出来ない③
「こちらがご注文の商品です。ご確認ください」
「ども」
受け取った眼鏡は、黒縁フレームで細めのシルエットの、先程まで店頭で見ていたものと似た意匠のものだ。李にへし折られた眼鏡とも似ているので、まあ見慣れた見た目ではある。
とはいえ以前使っていたものとは違う品でもあるので、掛け加減を確認するべくレジカウンターに据えられた鏡を覗き込もうとした時だった。
「あ、いけませんよ。視え具合を確認されるのでしたら、カラコンは外して頂かないと」
「え?」
カラコン? カラーコンタクト? んなもん付けてないけど。
「またまた御冗談を。それにしても、綺麗な赤色ですねー。どこの商品ですか? 私も欲しいかも……」
店員さんの表情に一切嘘が無い。本当に見たままのことを言っているだけなんだ。
「赤色……いや待てまさか」
店員さんの発言にハッとした俺は、眼鏡を掛けることも忘れてレジカウンターの鏡に鼻先を近付けた。それくらいまで接近しないと裸眼で自分の目の色なんて見えない。
『こ、これは……!』
俺と同時に鏡面を確認したディアナの驚く声が、脳内で響く。
果たしてそこに見えたのは、夕焼けの一番赤いところを切り取ったかのように鮮烈な、紅色の瞳だった。先日までは日本人らしく黒かったはずの俺の目が、今、見紛うことなく真紅に染まっている。
この目の色には当然覚えがある。誰あろう、俺の相棒たるディアナと同じだ。
『ほォー……いい傾向じゃねェーの』
驚きが納まらない俺とディアナとは対照的に、ハーシュノイズが感心する声が聞こえる。
な、なんでだ!? ひょっとして、昨日ディアナに視力を補助してもらってる間もこうなってたのか? でも今はしてないぞ!?
戸惑いつつも、ひとまず眼鏡店を後にする。カラコンだと信じ切っていた店員さんの追及は適当に誤魔化し、そそくさと店の自動ドアをくぐった。
少し眼鏡店から離れたところで、改めて購入した眼鏡を装着する……うん、視界良好。やっぱり今はディアナの粒子による視覚補正はされていない。銀白の相棒は、今はただ俺の身の内に潜んでいるだけだ。
しかし。
「……マジで赤いな」
傍らにあった書店のガラスに顔を近付ける。鏡ほどに俺の姿を映し出してはいないが、眼鏡によって取り戻した鮮明な視力が、俺の瞳がディアナと同じ色になっていることをはっきり捉えている。
『ンな悩むことでもねェだろ。お前ら二人の結びつきが強まったってだけだろォよ。いいことじゃねーか』
『そ、そういうことなんでしょうか』
ハーシュノイズの呆れたような声が頭の中で響く。響心率が上がったとか、そういう話ってことで良いんだろうか。
「……ま、いいか」
考えてもよく分からないし、とりあえず気にしないことにしよう。別に色が変わったというだけなら、それこそ黒のカラコンを付ければ誤魔化せるだろうし。眼鏡を掛けたことで、多少は周囲に認識されにくいだろうし……相棒と同じ色っていうのは、別に嫌じゃないし、な。




