相棒って本当に頼りになる②
そんな思考に耽る俺の脳内に、ディアナの鈴を転がすような、透き通った声が響き渡る。
『マスター、敵襲です。前方右斜め下方より、鳥型魔獣が数匹』
ディアナの示した方向に視線を向けると、毒々しい体色をした鳥のような生物が二匹ほど、荒々しい羽ばたきでこちらに向かってきている。
山を越えるほどの高度を進んでいるはずなのだが、この高さでも変わりなく飛行できるのは魔獣ゆえだろうか。
何はともあれ、無視するわけにもいかない。このまま進めば間違いなく接触するだろう。
現在は鎧姿で念話を送ってくる相棒に、こちらは普通に口で話しかける。
「ああ。俺にも見える。適当にあしらって先を急ごう」
『はい。マスターの御心のままに』
二つ返事で了承の返答。意識の呼吸を合わせ、迫る魔獣に向かい合う。
月神舞踏のすごいところその二。そのまま戦闘が可能。
魔鳥二匹がギャアギャアと喚き散らしながら迫ってくる。距離は近くなり、次に跳躍すればぶつかってしまうくらいの位置だ。
二匹が、おおよそ縦一列になって向かってきていると判断した俺は、速度や方向は変えず、高さだけほんの少し上目に跳んだ。二匹の頭上を飛び越える形になる。
そのまま通り過ぎてもよかったのだが、追い付いてこられても面倒だ。
なので、軽く小突いてやることにする。
一匹目の頭上まで到達したところで、その脳天にかかと落としをお見舞いする。真上からの衝撃を受けた魔鳥は、声で表現できない悲鳴を漏らしながら、眼下の山脈へと落下していった。
通り過ぎそうになった二匹目だが、相方が撃退されたのを目にし、急旋回して俺の背後から追い迫る形で接近してきた。
鋭いくちばしが俺の後頭部を貫きそうになる直前、その場で急回転した俺の横蹴りがボディにヒットする。魔鳥はものすごい勢いで吹っ飛び、瞬く間に見えなくなった。
月神舞踏を纏うと、俺の身体能力が、主に運動能力の面において目覚ましく向上する。
正確には強化による上乗せが行われる状態なのだろう。
俺をこの世界に喚び出しくさった魔術師サンファによれば、地球人はこの世界に召喚された時点で、肉体の運動能力が向上されるという。俺も昨日実感したが、その強化は、体育の授業中倒れこむほどに体力がなかった男子高校生が、足場の悪い山の中を数時間休みなく走り続けられたほどだ。
しかし月神舞踏は、その向上された身体能力をさらに上乗せ強化する。
これにより今の俺は、体操選手もびっくりなバランス感覚を有し、重量上げ選手にも勝る膂力を揮い、マラソン選手をも凌駕する持久力を発揮することができるのだ。




