金・三・響⑥
しかも、桜の鏡片が行っている仕事はそれだけに止まらない。イルミオーネは視線を更に周囲の街並みへ向ける。
家屋や路面を焼き尽くし、蹂躙する神位の焔。源流たる火焔体の周囲をある程度たゆたった桜の欠片は、二人の少女の歌声を纏ったまま国中に行き渡り、焔を吹き散らしていく。
火焔体と化し意識を失ったフレアを抑え、周囲の火事も沈静化し……その上。
なんだと言うのだ、この奇妙な高揚感は。
イルミオーネは、疲労で重くなった体の内側。胸の奥底にほんのりと灯る、言いようの無い感情に意識を向ける。
あの歌声を聴くだけで、妙に身体に力が湧いてくる。どんな強敵が相手でも、立ちはだかる壁が高くても、越えて行けると思わせてくる。
今なら、たとえ一人であの火焔体のような化け物に相対しろと言われるような状況になっても、拒否するどころか自分から志願して戦場に赴くことが出来そうなくらいだ。そして、きっとその戦では勝利を収めることが出来ると思える程の、不可思議な自信が生まれている。
「これが、アイドルの力、というヤツなのか……? フ、フフ、フフハハハハハハ!!!」
『……急に笑い出すのやめてもらえませんー? 怖いんですけどぉ』
「これが笑わずにいられるか! この力を、トレイユを発祥元として上手く活用出来れば……フフフ、笑いが止まらん。あいつらに声をかけた私の判断は間違っていなかったようだな!」
『まだお二人が受けてくれるとは決まってないんじゃなかったですっけぇー?』
「これだけの影響力を実感したとなっては、多少の要求があるなら呑んでやってもいいさ。最悪は……そうだな。私やお前自身が伝道師になるとか、な」
『……冗談ですよねぇー』
「さぁて、な。ともあれ今は……奴らの舞台を見届けようじゃないか」
そのとき、アタシの意識は、言葉で表現するにはどうにも難しい状態にあった。
正確には、アタシたちの意識は、かもしれないけれど。
アタシと、ルナと、リラ。三人で雲の上みたいなところにいて、どことも知れない方向に向かってライブをしているの。アタシとルナがメインでパフォーマンスして、リラがコールや拍手でサポートしてくれる感じ。
声をかけなくても、目を合わせなくてもお互いの考えが、動きが分かるような、不思議な状態だった。
そんな自分たちの様子を薄いベール越しに眺めながら、同時にたった今目の前で繰り広げられてる火焔体との戦闘状況も、無意識に把握することが出来ていた。自分でも理解出来ない空間認識状態で、火焔体の様子を窺う。
いける。
迷わずその結論を導き出した。




