金・三・響⑤
自身の背後でその歌声が聞こえてきた時、火焔体の攻撃を一身に防いでいたイルミオーネは、「おい馬鹿止めろ!!」と叫びたくなるのを必死に堪えた。
先程まで、アイリスが人外の爆音を響かせ、火焔体本体の動きを制限するどころか、周囲の火事まで抑えかけたことは分かっていた。しかしその、とても人間の声とは思えない超音波は、当然間近にいるイルミオーネや、戦線を離れたグゥイ、李にも容赦なく襲いかかっていたのだ。
先程までは、イルミオーネとダリアの心技、皇煌結界で凌ぐことが出来た。
両手を広げた程度の空間しかない結界ではあるが、そこにいれば魔素を有した声も、火焔体の魔法同様、砂粒へ強制的に帰属させることが出来る。
しかし、今イルミオーネは火焔体の猛攻を防ぐべく最前線へ出張っている。
この状況で再びあの超音波を発されたら、結界内の自分はともかく、下にいるグゥイたちはひとたまりもない。
激痛を感じるくらいで済めばまだいい。最悪、尋常でない音圧と振動に肉体が耐えきれず、爆発四散する可能性だってある。アイリスの声にはそれくらいの破壊力があった。
その反動は大きかったらしく、中断せざるを得なかったようだが……友人である少女が駆けつけたところで、あの爆音の後押しにはなっても、眼下の二人への影響が弱まることはない。それ故に、静止の大声を全力で張り上げるつもりで背後を振り向いた。
――が。目の前に広がり、耳に届くその音に、吐き出す予定の女王の言葉は行き先を失う。
「な……に?」
『……わーお。あのルナって人ぉ、ホントにただのチキュウ人なんですかぁー?』
「私に聞くな……答えられん」
アイリスと瑠奈が、瓦礫の山の上で歌っていた。
今になってようやく、イルミオーネは先ほどのアイリスの爆音も歌声だったのだと気付く。
それと分かるほどに、今耳に聞こえる音は調律が為されていた。
アイリスが原音のまま歌い、瑠奈が低音のパートを紡ぐ。時には同時に、時には一拍遅れながら。
金髪の少女の歌声と調和を取る栗色の髪の少女の歌声が、アイリスの声を歌だと周囲に認識させるほど、その影響を和らげている。
そして。イルミオーネは二人の歌声を耳に感じるまま、攻撃がパタリと止んだ火焔体の方へ視線を戻した。
そこには、アイリスたちの歌声の効果を一身に浴びる、火焔体の蠢く姿があった。
「あの魔装の力か……」
火焔体の周囲に大半と、歌い続ける少女二人の周りにも少数、リラという名の少女が変身した桜色の破片が目まぐるしく動き回っているのが分かる。
あの鏡のように煌めく破片が空中を駆け巡り、要所要所で歌声を拡散・反射・集積させることで、不必要に周囲へ歌声を撒き散らすことなく、その行き先を定め、定めた標的にだけ歌声を集中させることが出来ているのだ。




