金・三・響④
守る対象だと思っていたルナを前線に立たせたくないから? 未だに距離感を図りかねているリラの立案した作戦と聞いたから? 自分の喉がどこまで耐えられるのか不安があるから? それとも。
……多分、きっとその全部だ。
言葉に詰まり、顔が俯く。何が最善で、何を目的に動けばいいのか分からなくなる――
――アタシの右手を、小さな手がそっと包む。
前にも、こんな光景を見たような記憶がある。目の前に選択肢を与えられて、だけど譲れないものとの間でせめぎ合って、結論を出せず思考の海に迷い込んで……それを、優しく掬い上げて落ち着かせる、そんな光景を。
後になって思い出した。アタシがこのとき幻視したのは、ユーハとディアナのことだった。
荒天島への転移魔法陣を、アタシが初めて見せたときの二人の様子だ。
膠着したアタシの手を。思考の海に溺れそうになるアタシの意識を掬い上げた、少女のことを見る。
「……リラ」
「……信じて、かーさま……あなたの友達と……あなたの、娘のことを」
びくん、と体が震えた。
そして、かつて感じたことのある、奇妙な高揚感が胸の奥底に湧き立つ。
荒れた呼吸が落ち着く。
五感が冴え渡る。
脳が研ぎ澄まされていく。
右手を包む小さな手を、そっと握り返し、顔を上げる。
「……いける、のよね? リラ……ルナ」
「……ん……!」「もっちろん!」
空いていたもう片方の手で、ルナの手を握る。
アタシの胸に湧き起こったこの感情を、かつて、ユーハとディアナと一緒に感じたこの感覚を、伝えることが出来るように。
成功を確信する根拠の無い自身――
思考の海に嵌っていた原因の全ては、もう頭の片隅にも残っていなかった。
まだ傷が開いたままだろうに意にも介さず、己の心の赴くままにアタシは叫ぶ。
「じゃあ……やってやりましょうっ!!」
常に眠気を抱いた表情のリラが、明確な意思を宿した目で頷き、再び桜の刃に身を変じさせる。
今度の姿は、桜盾という名の五枚の刃ではない。もっと細かく、小さく、目視ではその総数を補足出来ないくらい大量の、桜色の破片。周囲の焔の輝きを反射しながら光る破片が、四方八方に散開し、火焔体の頭上付近に集い始める。
仮に魔装形態とするなら、桜鏡、なんていいんじゃない?
あとでユーハたちにも提案してみないと、ね!
残されたアタシとルナは、手を繋いだまま無言で視線を交わす。
どちらからともなく頷き、肺に、いっぱいの空気を送り込む。
お待たせしました、フレア様。
思わぬインターバルを設けることになっちゃったけれど、それだけの価値はありましたよ。
とっておきのゲストが、二人も駆け付けてくれたんですから。
さあ、もう一度。今度は途中で止まったりしない。
貴方を助け出すまで休憩なしのノンストップです。
もう一度――
「「アタシ(私)たちの歌を、聞きなさいっ!!」」




