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金・三・響②

その歌声をアタシは今、一切の制限(リミッター)をかけることなく最大限の力を込めて垂れ流している。額に汗を滲ませながら、呼吸の一瞬さえ惜しみながら。


すると、どうだ。


眉間にしわ寄せ、力んだ細目には、火焔体とその周囲の焔が、自身の揺らめき以外の微細な振動に(おか)されている様子が見える。


本体である火焔体が、グゥイさんの呼びかけを受けていたときと同じように頭を抱え、明確に不快感を露わにしている。


ゆらゆらと揺れながら街並みを焼いていた焔が、無理やり音を付けるならビビビ、とでも言うように高速振動して、はらはらと千切れては霧散する。


震源である、アタシを中心に……周囲の火事が、少しずつ、消滅していく。


これが、アタシの最後の思い付き。イチかバチかの捨て身の賭け。


神位魔術師たるフレア様をして、『国を傾ける魔法』とまで揶揄された……アタシの歌だ。


「―――――ッッ!!!!!」


声にならない声で、自分の持ち歌である『渚の魔法少女』を吐き出し続ける。


腫瘍を除去された今のアタシだと、普通に歌うだけでは、傾国と呼ばれたあの頃の歌声にはならない。自身で調整可能な限界を超えて、音域や音程を無視した強引な負荷を喉に掛けることで、ようやく当時の歌声が再現出来る。


……ベロニカで毎日ゲリラライブをしていた頃は何でも無かったのに。いざ意識してやろうとすると、こんなにしんどいなんてね!


水を含まずにうがいするとか、喉の奥をゴロゴロ鳴らすとか、そういうことをしながら全力の大声を出して、歌い続ける……そんな感じのことをするのは流石に初めてだ。


「――っ!? ゲ、ホ!! ゴホっ!!」


だから、不意に訪れた呼吸の不調に、アタシはとっさに立て直すことが出来なかった。


何の前触れもなく急に喉がむず痒くなり、咳き込んでしまう。あまりに突然のことで、普通の歌い方に切り替えて喉の負担を和らげたりとか、そういう対応を取ることが出来なかった。口元に手を当てて、呼吸を整えることだけに専念する。


「ハァ……ハ……あ、アハハ……ヤバいわねコレ……」


荒れた息がどうにか落ち着いて、口に当てていた手を離すと、そこには真新しい鮮血が付着していた。喉の奥の方に、歌い続けていた疲労以外の痛覚が、じんわりと熱を伴って存在しているのを確かに感じる。


やっぱり、無茶な歌い方だったんだわ。時間にして十分も経ってないのに、過度な負担を受けて喉が裂けたんだ。


……でも、ここで止めるわけにはいかないわよね。


唇を手の甲で拭い、再び肺いっぱいに息を吸いこんだ、そのとき。

アタシの立つ瓦礫を取り囲むように、周囲に焔の包囲網が屹立する。


――しまった! 今の隙に、火焔体もフリーになっちゃったんだ!


向き直ると、案の定、怒りの感情をありありと滲ませた火焔体が、極太の火尖槍(バスターチャージ)を振りかぶっていた。


当然、アタシにはそれを迎撃できる手立てはない。かといってこのまま棒立ちになっていたらいい的だ。相殺は出来ないまでも、少しでも威力を軽減させて、また歌わないと――


そう考えたアタシの目の前で焔の槍が放たれる。対するには過少に過ぎる魔素を右手に宿し、氷属性を宿した魔素球を投擲するべく構える。


アタシの手から魔素球が射出される瞬間、紅蓮の槍が桜色の盾に阻まれた。

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