相棒って本当に頼りになる①
俺が『月神舞踏』でトレイユの王城を飛び出し、早三時間ほどが過ぎた。
ディアナがその身を変えた夜色の装具を纏い、はるか上空を駆けている最中である。
空は見事な晴天。太陽の輝きも地球と変わらず大地にその温もりを届けてくれている。見た目はこっちで言う土星のように、太陽の周りに輪が周っているけれど。
眼下には、山々の峻険な連なりが遠く彼方まで広がり、時折雲の姿が風に乗って後方へ流れていく。
向かっている方向は北東。眼下に広がる山脈の大地の遠方に、うっすらと背の高い城壁のようなものが見える。おそらくあれが目的地である次の国、ベロニカの国壁だろう。
さて、この月神舞踏という魔装形態を発動するのはこれでまだ二度目だが、国家間の山脈を越えるという単純な行為の中でさえ、そのポテンシャルの高さに舌を巻く。
まず第一に、三次元高速移動が可能。
俺はまた一歩、空中に右の足を踏み出した。直後、その俺の行動か意識かに応じ、身を纏う鎧と同じ夜色の丸い魔法陣が展開され、俺が中空を跳躍するための力場となる。
距離にして二~三メートルほどを踏み切り、今度は左足を前へ。同様に発動した魔法陣を蹴り、さらに進む。
この月神舞踏という魔装形態は、円形魔法陣を発動することにより、物理的に足場とすることが不可能な物や空間でも、跳躍・走行することができるのだ。
今は必要最小限の心素を使うようにしているため、その一歩による跳躍距離はそこそこだ。
同年代である高校生の立ち幅跳びでも同じくらいの記録が出るだろう。
しかし、魔法陣に込める心素の量は任意で指定できる。多ければ多いほど飛距離は伸ばせるし、逆に距離はそのままで到達速度を速めることも可能だ。先の首長竜との戦闘時は、どちらかといえばそっちが重宝したな。
魔法陣はその場の空間に現れるというよりは俺の足の真下に現れるため、角度も気にしなくていい。
縦横無尽に空中を飛び回って剣で斬りまくるとかいう、RPGの主人公のような攻撃も夢ではない。する予定はないけど。
単調な調子で歩を進めながら、俺の思考が明後日の方向に舵を切り始める。そう、考えることはいつだってルナちゃんに関することだ。
月神舞踏でルナちゃんのライブ会場に行けたらどんなに役立つか……空中でアクロバティックな動きでサイリウムを振り回し、これでもかと声援を送れるだろうなあ。いやむしろかぶりつきの位置でパフォーマンスを拝むことができるのでは!?
いやいやいや待て待て、そんなことしたら他の同志にも迷惑がかかるうえに、撮影班の邪魔になってしまうな。周囲に迷惑をかけるようでは一流のファンとは言えない。
ファンの行為は、ひいては応援するアイドルへの評価にもつながるときがあるのだ。決して礼を失した行為に走ってはいけないのだ。




