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金・二・災⑧

牽制の意味を込めてか、リーが右の拳に心素(エナ)を集中させ、火焔体へと正拳付きを放った。


突き出された拳は紅蓮の身体に一瞬穴を空けたが、それ以上のダメージは無いらしく、火焔体に異変は無い。穿った穴も、不規則に波打つ全身の焔によって瞬時に塞がってしまう。


突き出した右手を(わずら)わしそうに振るリーの姿を見て、再び気付く。彼の右手もまた黒く焼け焦げていることに。


それはつまり、リーの心素をもってしても、火焔体に有効的なダメージを与えられない、ということを意味する。そして同時に、相手の攻撃を防ぐ、相殺することも叶わない、ということも。


長くは()たない。リーの呟きは、そういう意味だったんだ。


「……グゥイさん!!」


焦燥感にかられ、思わず叫んだアタシに応えるかのように、火焔体から離れた瓦礫の上に、執事服の女性が降り立つ。


目に付きやすいが、すぐには近付けない。それくらいの距離。

屹立したグゥイさんが胸いっぱいに息を吸い込み、声を張り上げた。


「――聞こえますか、フレア様!! 私です。グレイスフィールです!!!」


火焔体の近くにいるアタシでも耳が痛くなるくらいの声量。真名で呼びかけているのは、少しでも心の奥底に声を届けようとしているのか。


その姿は、光景は、かつて一緒に旅をしていた異世界の少年の姿と重なる。心を操る神位魔術師の術にかかり、相棒である響心魔装(シンクロ・デバイス)を奪われた、あの少年と。


立場こそ逆だけれど、今のグゥイさんとフレア様の関係性は、あのときのユーハとディアナにそっくりそのまま同じものだ。そういえば、どうしてあのとき、ディアナがサンファ様の呪縛から解放されたのか、明確な理由をアタシは知らないままだ。


でも、これだけは間違いないって分かることがある。

それは、ユーハの決死の呼びかけが、何らかの力を伴ってディアナを救ったんだってこと。


そりゃあ勿論、一緒にディアナに呼びかけたアタシだって、その一部に含まれているに違いないとは思うけど……直接の主従関係にある二人の方が、きっと互いに作用する力は大きいんでしょうし。


だから今回だって、今目の前に入る二人だって、きっと同じように――


アタシが期待を込めて見守る中、火焔体に変化が現れた。


絶え間なく続いているグゥイさんの声に反応している、ように見えるのだ。

人間の姿を持つ上半身が小刻みに震え、両腕で頭を抱え、苦しんでいる風の素振りを見せている。


! そうだ、そういえばディアナのときも、ユーハの言葉に戸惑っているような感じになってた!


きっとパートナーであるグゥイさんの声が届いているんだ!


執事服の女性もまた、火焔体の様子に効果を感じ取ったのか、より一層気持ちを乗せた言葉を続けている。

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