金・二・災⑦
全員の意思が己に向かうのを感じ取ったのだろうか。フレア様たる火焔体が剥き出しの単眼を細め、アタシたちの頭上を睨む。瞬間、肉眼では捕捉しきれないほどに無数の紅蓮色の光球が空中を埋め尽くした。
その直後、瞬き一回にも満たない間に、全ての火球が炎の線を眼下に射出する。
「灯檻です!」
「数、が、違い過ぎるだろうがッ!!」
グゥイさんの呼びかけに、アタシたち四人は各々の手段で光線の回避に移る。
リーは心素を集中させた一歩で大きく射程外へ跳躍し、イルミオーネ様は碧槌で光線を薙ぎ払い、グゥイさんは限定魔装を発動させ手前から全ての光線を逸らす。アタシもまた、身体強化の魔素を両脚に集中させて、火焔体本体へ向かって駆け抜けながら火球の外へ躍り出た。
物理的に近付いたことで、全身を覆う威圧感も明らかに強まっている。
気圧されそうになるのを、自分自身に活を入れることで必死で耐えながら、アタシはそのまま火焔体に向かって走った。そのすぐ後ろに、リーが追随する。
アタシとリーの役目は囮だ。
機動力に優れる二人で付かず離れずの位置をキープし、注意と攻撃を惹き付ける。その隙に、少し離れたところでイルミオーネ様が護衛するグゥイさんが、呼びかける。そういう手筈。
自分の役割を改めて叩き込み、アタシは氷属性の魔素球を火焔体に放った。
火焔体は、それらを避けようとも迎え撃とうともしない。魔素球は直撃したが、火焔体の身体があまりに高熱なためか、瞬く間に蒸発してしまった。効果があるのかないのか分かんないわねこれじゃ。
でもそれでいい。アタシたちはダメージを与えに来たんじゃないから。
リーもまた、崩れたギルド建物の瓦礫を適当に投げ飛ばし、火焔体の注意を集めようとしている。
それも着弾するとすぐに炭になって崩れ去ってしまうが……
紅蓮色をした剥き出しの眼球は、忙しなく動き回るアタシとリーを、交互にぎょろぎょろと見回している。役割は果たせてる。
不規則に動き回るアタシたち。それを追う眼球が、あるときリーの方を向いて、そのまま数秒固まった。今まさに瓦礫を蹴飛ばしたところだったリーの背後。崩れ落ちた建物の壁に、子供の落書きのような、紅蓮色の円形の模様が現れる。
「っ! リー! うしろ!」
アタシが叫ぶのとほとんど同時に、模様から火柱が溢れ出た。
一瞬早かったリーがすかさず身を翻す。マントのように身体に纏っていた、ボロボロの布の端に火が燃え移り、瞬く間にその範囲が広がる。
迷わない判断でリーは布を脱ぎ捨てる。はらりと宙に舞った布は、地面に落ちる前に灰になって消えてしまった。サラシ布を巻いただけのリーの上半身が露わになる。
「……長くは保たんな」
そう呟いた武人の左腕は、ほんの一部だけ黒ずんでいた。
今の焔、少しだけかすっていたんだ。




