金・二・災⑥
「ご存知、なのですか? フレア様の神装神衣形態を」
「ああ、よーく知っているとも。あの日、アイリスたちが我が城を急襲したその日に、私は奴に、その魔法でやられたのだからな!」
あー……ナルホド。そんな憎らしそうに見ないでくださいよ。イルミオーネ様が負けたのはアタシのせいじゃないんですけど。なーんて返事をしたらいらない怒りを買いそうなので黙って苦笑を返しておく。
さて、イルミオーネ様が言うには、神装神衣を行ったフレア様の姿は、元来の人の姿とほとんど変わりなく、ただその全身を構成するのが肉ではなく、神位たる焔そのものに変わる、ということだった。
「あんな風にマトモな人の姿すら取れず、無意味に下半身が太ったような姿ではなかったし、当然理性もあった……やはり今の姿が異常なんだろうよ」
こちらの出方を窺っているのか、炎弾の発射から不気味に沈黙している火焔体を睨み、イルミオーネ様が話を締める。
「レイシー。何か、策はあるか」
リーが火焔体から視線を外さず、グゥイさんへと問いかける。
理性が無いとはいえ、今なお放たれ続ける尋常ではない威圧感と、属性究極化魔法さえ打ち破る魔素を込めた魔法。脅威度で言えば、通常の神装神衣を成したフレア様よりも上かもしれない。そんな相手に作戦も無く突っ込むのは、ただの無謀だ。
……そんな無謀をやってのけたバカが一人いたけどね。
相棒たる響心魔装を取り返すべく、何の策も無いまま、黒幕たる神位魔術師の下へ向かう決断を下した少年のことを、一瞬脳裏に思い浮かべる。
僅かな間の逡巡で、フレア様のパートナーたる女性は心を決めたようだった。
「……私が、説得を試みます」
「貴様、正気か!?」
イルミオーネ様が驚愕に目を見開く。しかし、グゥイさんの目には煌々と輝く強い意志が秘められているのが、アタシにも分かった。
「根拠の無い案ではございません。ここまで近付けば、生命回路を通して私には分かります。己を侵食する謎の魔素に、フレア様の意識が抗い続けていることが」
呟いた執事服の女性が、胸元を押さえた拳を強く握り締める。
「その女王もまた、何者かの攻撃を受けているということか? この国の惨状はその副産物であり、女王が意図して引き起こしたものではない、と」
「私は、そう思います。だからまずは、私が外部から声をかけ、フレア様の意識を表出化させます。それによって、フレア様を襲う敵の姿が、少しでも浮き彫りになれば……」
「希望的観測が過ぎるな……」
グゥイさんの言葉は攻略のための作戦という見地から、そうなってほしい、という願望を込めたものに変わってきている。アタシと同じものを感じ取ったらしいイルミオーネ様が、分かりやすく「やれやれ」と肩を落とした。
『でもぉー。他にイイ案も無いんじゃないですかぁー?』
魔装形態たる碧槌の姿であるダリアさんの声が、頭の中で響く。それを聞いたイルミオーネ様は、む、と口を噤ませると、溜め息をついた。
アタシは二人の顔を見て、頷く。
「じゃあ……やりましょう!」




