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金・二・災④

冒険者ギルドへと向かっているのは、そこが迷宮(ダンジョン)の入口であり、すなわち、フレア様の焔が溢れ出ている中心地点だからだ。ただ焔を止めるにせよ、フレア様を探し出すにせよ、まずは迷宮の入口に向かう必要がある。


道中、多くの冒険者たちが身を粉にして焔の拡大を防いでいる中、アタシたちは一目散に屋根の上を駆け、階段を数段飛ばしで登りつめ……そして、辿り着いた。


山の斜面に段々状になって広がるガランゾ国。王城を(いただ)く最頂部の一段下に、冒険者ギルドがある。


イルミオーネ様とダリアさんのおかげで、大きく消耗することなく目的地のある階層に到着出来たアタシたちは、少しだけ立ち止まって軽く息を整えると、すぐさま気を引き締め直して、再びギルドの方へ走り出す――


その、一歩踏み出した瞬間だった。


太い石柱が立ち並ぶギルドの建物。一目見ただけで頑強と分かるそれが、内側から粉々に弾け飛んだ。急激に膨張した球状の焔が大爆発を起こしたのだ。


まだ離れたところにいるアタシたちのところにも爆風が届き、凄まじい熱風に思わず目を細める。


一瞬窮したイルミオーネ様が舌打ちして、槌部分を膨張させた碧槌を地面に叩きつけた。響き渡った地属性の波動が熱風に干渉し、肌に伝わる熱が弱まる。


乾いた目を(しばたた)かせ、前方を向いたアタシは、見た。


ギルドのあったところに、焔で出来た人影……のようなものがあるのを。


ようなもの、っていうのは、一部は人間のように見えるのに、それ以外の部分は明らかに人間じゃなかったからだ。


かろうじて女性に見えなくもないシルエットの上半身に、デコボコと不定形な巨大な焔の球が雑にくっついていた。


前にベロニカ城の書庫で読んだことのある、かつて荒天島にいたとされる、女性の上半身と蜘蛛の魔獣の下半身を持った魔晶個体――チキュウ人の命名を取ってアラクネと呼ばれていた――に、遠目には似ているように見える。


だけど、挿絵で見たアラクネに比べて、目の前で煌々と燃え盛る焔の存在はひどく歪な形をしていた。人間体の部分で真っ直ぐ通っているラインは一つも無いし、顔の辺りは形こそ似ているけど目鼻のようなものは一つも無い。そのうえ、下半身部分に付いている火球は中心が上半身とズレていた。


しかし……アタシをはじめ、誰もが肌で感じていた。


その火焔の存在から感じる、奇妙な威圧感。

例えるなら、自分よりも存在そのものが高位に位置付けられた相手と向き合っているかのような。


直感する。アレが、あの、魔獣以上に歪な姿をした存在が、フレア様なのだと。


周囲の熱のせいだけではない。刹那の内に体感した極度の緊張で乾いた喉が、ごくりと唾を嚥下(えんげ)する。


まるでそれを聞き取ったかのように、瞼の無い剥き出しの単眼がギョロリと見開かれた。

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