金・二・災③
燃え盛る家々の屋根を、数秒の間隔の内に駆け抜け、次なる足場へ飛び移る。
アタシ、グゥイさん、リー、イルミオーネ様の計四人は、可能な限りの全速力でガランゾの街を駆けていた。先頭を駆けているのは意外にも、ダリアさんの変身した碧槌を担いだイルミオーネ様である。
「……てっきり、『なぜ私がそんなことに手を貸さないといけないのだ!』って突っぱねると思ってましたよ」
「おい、いくら何でも言って良いことと悪いことがあるぞ貴様……まあ、打算があったことは否定しないが」
ああ、貸しを作ろうとしてるって言ってたもんね。確かにこの事態を収束させられたら、それはもう相当な貸しに出来るでしょうね。
アタシの問いかけに答えるイルミオーネ様は、周囲の惨状に比べて遥かに涼しげな表情だ。
と言うのも、アタシはついさっき初めて知ったんだけれど、ダリアさんの魔装形態たる翡翠色の槌には、地属性の属性究極化が施されていて、神位の焔であってもある程度なら難なく蹴散らせるのだ。
ユーハたちと一緒にトレイユの王城に乗り込んだ時。フレア様もその相性差に苦戦を強いられたものだ、とはイルミオーネ様の言。
その言葉の真偽はともかく、目の前で実際に焔が容易く散らされているのを見ると、あながちその話も嘘ではないのかも、という気分になってくる。
先頭をイルミオーネ様達に任せ、二番目にアタシが続いて、若干零れる火の粉なんかを氷属性の魔素球で相殺する。その後ろをグゥイさんとリーが付いてくる、といった隊列を組んで、アタシたちは冒険者ギルドの方へと向かっていた。
ルナは……流石に置いて来た。リラにはルナの傍についてもらってる。
もちろん素直に頷かなかった。だけど、現状ガランゾが見舞われている事態を冷静に伝えて、ルナを護るだけの余裕が無いことを、そして、今ルナに出来ることは何もないってことを伝えたら、力なく首を縦に振ってくれた。
ルナはチキュウ人だ。魔素を持たないから魔法を使えないし、パートナーの響心魔装もいない。ただ心素が多いだけでは……今は、何も出来ない。
それを、アタシ自身心苦しいながらも伝えると、ルナは悔しそうに唇をぎゅっと横に結んだ。
そのあとにゆっくりと頷くと、アタシの手を取った。
『分かった。だけどもし、私の力が必要な時は……絶対に呼んでね』
そう言って、ぎゅっと強く手を握って来た。
アタシは深く頷いて、リラに、ルナのことを任せて……一向に火の手が弱まる様子の無い、ガランゾに突入したんだ。




