金・二・災①
トレイユの女王、イルミオーネ様から予想だにしない勧誘を受けた、翌日。
シンカンセンでの旅も三日目に差し掛かった昼下がり。アタシたちはついに、目的地であるガランゾの国門付近に到着した。
定着地点で緩やかに停止したシンカンセンから出たアタシは、座りっぱなしで凝り固まった身体をほぐすべく、思い切り伸びをする。ルナやリラたちも続いて、乗車した全員が続々と外に出てくる。
そして、最後に降車したイルミオーネ様が、ガランゾの方角を見て眉を顰めた。
「ようやっと到着か……ん? なんだアレは」
「煙……?」
緩やかな山脈の側面に、住居が段々になって貼り付いているような外観のガランゾ。その所々で、遠目にも分かるくらいに、黒々とした煙が上がっている。
それに、何だか様子がおかしい。
シンカンセンを降りて初めて気付いたけど、聞こえてくるのは……何かを破壊するような爆発音と、人の悲鳴だ。
「――っ!!」
アタシがそれに気付いたのとほぼ同時に、血相を変えたグゥイさんが門へと向かって駆け出した。そのすぐ後ろを無言でリーが追い、慌ててアタシたちも二人の背に続く。
ほどなくして国門が見えてくる。そして、ガランゾの惨状もまた、否応なしに目に飛び込んできた。
国全体が、燃えていた。
そこかしこで火の手が上がり、建物を、街道を焼き尽くしている。
緊急事態を知らせる早鐘がけたたましく鳴り渡り、時折それをかき消すほどの爆発音が轟いて建築物が爆ぜる。
常は閉ざされ、兵士により警備されている門は大きく開け放たれ、そこから大勢の人たちが慌ただしく国を後にしている。
そこには、アタシが訪れた時の、毎日が祭りの最中のような、高揚感を抱かせる賑々しさは存在しなかった。
「これ、は……いったい……」
ガランゾを襲う未曽有の事態を目の当たりにし、グゥイさんが言葉を失っている。
状況が理解できずにいるアタシたちが茫然と立ちすくむ中、一人の女性がグゥイさんのところへ駆け寄ってきた。
「ああ、グゥイ様! お戻りになられたのですね!」
その女性に、アタシは見覚えがあった。そうだ。ユーハたちと迷宮に入るとき、アタシたちを案内してくれた、冒険者ギルドの受付嬢さんだ。
受付嬢さんもまた事態の対処に追われているようで、その頬には煤が付着し、額には大粒の汗が滲んでいた。グゥイさんが、肩で息をする彼女に呼吸を落ち着けるよう促している。
「……何が、起こっているのですか?」
グゥイさんが問いかける。
受付嬢さんは一瞬ためらうような表情を見せたが、深呼吸すると、意を決した様子で呟いた。
「フレア様、です。フレア様が……街を焼き払っているんです」




