金・二・道⑩
全く余計な事を! と憤慨したイルミオーネ様は、三本目の酒瓶も一気に半分近くまで飲み下すと、「あ゛ぁ゛ぁ~」という、年若の女王には到底似つかわしくない声を放つ。
その一方で、アタシは責め立てられた自身の行いを思い返していた。
嬉しい、ような気がした。
アタシのライブが、無気力だった人たちにやる気を出させた。
国を襲い来る魔物たち。それを凌ぐ一時的な気持ちだけじゃなくて、それより先、これから先、日々を生きていく中での一つの指針のようなものになった。目標のようなものになった。
それが、自分以外の誰かから指摘されたことで初めて分かって、嬉しいような気持ちになってしまったのだ。
愚痴だと言っているイルミオーネ様には申し訳ない、のかもしれないけど……いやでもよく考えたら別にアタシなんにも悪いことしてないじゃない。申し訳なく思う必要なんかなかったわ。
……この、シンカンセンでガランゾへと向かう道中、アタシとルナは互いが出会い、別れた後の近況を報告し合っていた。
ルナのアイドルとしての活躍は、前にユーハから教えてもらっていたけれど、ルナの方はアタシがどうしていたのかは知らない。チキュウで再開した時は、リーのこととかいろいろあって、そんなことを話し合う暇なんてとてもなかった。だからこの旅は、そういう意味ではとってもいい機会だった。
そんな、『アイドルとしての初仕事』を終え、その、ある意味市場報告を受けているアタシの表情を、ルナがどこか懐かしいような、愛おしそうな視線で眺めているのが分かる。
「……なによ」
「んー? べつに? なーんでもないケド」
「その、何か言いたそうにしてる目は何、って言ってんのよ!」
「なんでもないったら。ふふ、ちょっと懐かしくなっただけだもん」
頬がにやけそうになって、その高揚感を誤魔化すために顔を揉み解すアタシに対して、ルナは隠そうともしない、眩しいばかりの笑顔だ。
多分だけど。アイドルとしての自分の歌やダンス、ライブで、誰かに元気になってもらえた……喜んでもらえた。その嬉しさを味わうアタシに、共感してるんだと思う。
ニヤニヤとアタシを見つめるルナを睨みつけていると、あっという間に三本目の酒瓶も空にしたイルミオーネ様が憤慨を露わに叫んだ。
「オイお前ら! 私の話をそっちのけで何をこしょこしょ話してる!!」
「ああハイハイすいませんでしたごめんなさーい」
「おっまえな……酒飲んでるからと雑に扱いおって……まあいい。愚痴は丁度ここまでだからな」
あれ、思ったより手短に済んだわね。この場にいないユーハの分まであれこれ非難されるんじゃないかと、内心身構えてたんだけどな。
意外にもすんなりと話が終わりそうで胸を撫で下ろす……が、その言い方にちょっと引っかかった。
愚痴はここまで、って。なんか続きがあるみたいな言い回しじゃない?




