金・二・再⑧
そういう意味では、このヒトとイルミオーネ様の関係も、よくある召喚者と響心魔装の関係とは違う、と言えるかもしれない。
このヒトに聞けば、何か分かるかしら? アタシは一体、リラに何をしてあげられるのか――
不意にそんな考えが頭をよぎり、考えるより先に口が開こうとしていた、そのとき。
「緊急事態だ」
「えっ!? な、なんですかっ!?」
アタシとリラの背後にある客間の扉が、バァン!! という音と共に勢い良く開け放たれる。
背後で突如鳴り響いた轟音に思わず背筋が伸びる。ソファに腰かけていたルナも思わず立ち上がり、アタシの隣にいたリラが腰の辺りにしがみついて来た。
振り返ると、そこにいたのは、先ほど姿を消した男性、リージュンジエ。
「起きていたか。眠りこけていたら起きるだろうと思い、わざと大きな音を出してやったというのに」
「女性がいる部屋になんてことすんのよ!」
「……びっくりしたー……」
ちっとも悪びれる様子の無いリーに憤慨して見せるが、やはり男性の表情は露ほども変わらない。
「まあいい。ともかく全員身支度を整えて城の前まで来い。そこの猫娘、お前もだ」
名指しされたダリアさんが苦々しそうな顔を作る。その割には、隠れる素振りも見せていないのはどうなのかしら。
「緊急事態って、何があったんですか?」
「詳細は知らんが、レイシーにガランゾの役人から連絡があった。あの天壌紅蓮と連絡が取れないそうだ」
「フレア様と……!?」
ルナの問いに対するその返答に、アタシは驚きを隠せない。
あの人は、名実ともにエーテルリンク最強の魔術師だ。どんな状況下、強敵相手でも不敵な笑みを湛え、爆炎と共に全ての敵を薙ぎ払う――この世界の人間なら誰でも、幼子の内からそう教え聞かされる。
魔晶個体率いる雲鯨数十体の群れを一人で撃破したとか、最高難度・階層数の迷宮を単身クリアしたとか、過去の神位魔術師と一対三で立ち会いながらも勝利したとか……戦闘にまつわる逸話には事欠かない。
……それだけに、ユーハたちと一緒に撃退出来た時は本当に信じられなかったけれど。
「彼の女王にはレイシーも世話になっていると聞く。それが火急の事態に陥っているとなれば、黙っているわけにもいくまい」
「それぇー、わたしは行かなくてもよくないですかぁ」
「お前の主も同じことを言っていたがな。お前たちは仮にも天壌紅蓮の弟子なのだろうが。師の助けに弟子が赴くは道理。首根っこを引っ掴んででも連れて行くぞ」
「うへー……」




