二度あったことを三度はさせない⑩
その後、いやらしい笑顔で何事かをさえずろうとした魔術師の下腹部を蹴り飛ばし、俺とディアナは客室前の廊下を後にした。その際、うずくまって腹を抑えるサンファに、俺のバッグを持って城の出口まで来いと言い放つのを忘れない。
ったく、休む気分でもなくなったわ! ホントにあのサンファとかいう野郎は話すだけでしんどい相手だ。できればもう二度と話したくない。いや会いたくない。
奴の、人を小馬鹿にしたような言動を思い出すたびに、胸の奥に言葉にできないイライラが募ってくる。
こんな気分にさせられるだけで実に優秀な魔術師だ、と皮肉の一つも吐きたくなる。
肩を怒らせながら出口へ向かう階段を目指す俺に、心配げな様子のディアナが声をかけてくる。
「マスター、大丈夫ですか? ご気分が優れないようですが……」
「……ああ、悪い。嫌いな奴と話してたからストレス溜まって」
「嫌いな奴、とは、先ほどの宮廷魔術師の方のことでしょうか。サンファ、と呼ばれていた」
「そうそれ。この国の神位魔術師、とか言ってたな」
神の位、なんて銘打つほどだから、実際の実力は相当なものなのだろう。その実力が戦闘力なのか、技術力なのかはわからないが。
俺の適当な前蹴りを受け身なしで食らってるところを見ると、そんなに戦闘は得意ではなさそうだけど。
「神位魔術師……ではあの方が、マスターをエーテルリンクに召喚したのですね。なるほど確かに、それに見合うだけの魔力を感じました」
ふむ。そうなのか。そのディアナの発言に、サンファへの評価を今一度改めてみる。
あの軽薄な立ち居振る舞いは、ひょっとして自分の強大さを相手に感じさせないための配慮なのだろうか……と思ったが、さっきすんでのところで俺をからかえなかったときの、心底楽しそうな目を思い出し、絶対にそれはないとかぶりを振った。
あの性格は素だろう。一瞬だけ見直そうとしたが、即座に鼻で笑い飛ばす。
ディアナを生産した魔導工房の技術者は変人だらけだった、とか言っていたが、あいつも大差ないように思う。あの全身からあふれる胡散臭さと、勝手に話を進めようとする神経の図太さはいろんな意味で閉口ものだからな。
それを考えると、そんな意味でもディアナが相棒でよかったとしみじみ思う……
「……あの、マスター? 階段では前を見ないと足を踏み外しますよ」
出口へ向かう階段を下りながら腕を組んで一人頷く俺は、知らぬ内に、相棒に冷ややかな目線を向けられていたのだった。




