金・二・再⑦
ベロニカ王のお力添えもあって、アタシはそれまで暮らしていた王城内の一角にそのまま住まわせてもらえることになった。
路頭には迷わずに済んだけれど……幼くして母親を、家族を失ったアタシには、『親』というものが子に対してどうするべきものなのかをよく知らない。
小さい頃のアタシのことは、陛下が気にかけてくれたと言えばそうなんだけれど、あの方はアタシの親代わりである前に一国の長であり、もっとたくさんの人たちのために力を尽くさなければならない人だ。宮廷魔術師だったとはいえ一般市民に過ぎなかった、アタシたちみたいな意味での家族と呼べるような関係じゃない。
お風呂に来る前、ベッドの上でアタシのことをじっと見つめていたリラの目が脳裏に浮かぶ。
このコはアタシのことを、本当に母親だと思ってくれているのだろうか。それらしいことを、何も出来ていないのに。
アタシはこれでいいのかな? 母親ってこんな感じなのかな?
もっと、この子のためになることが、この子のためにしなきゃいけないことが、あるんじゃないかな?
リラは……アタシに、どうして欲しいのかな?
こうして、肩を並べて二人一緒に湯船に浸かっていても、答えは出ない。
お湯で弛緩する身体とは裏腹に、胸の奥の方がきゅうっと強張っていった。
「おやぁー。お帰りなさいですねー」
「え」
お風呂の熱気が冷めやらぬ内に客間に戻ったアタシとリラを、さっきまでアタシたちが寝転んでいたベッドを占領する少女が出迎えた。応接用のソファに腰かけたルナが眉をハの字にした笑顔を浮かべている。
「だ、ダリアさん、でしたっけ? なんでここに?」
てっきりグゥイさんが、イルミオーネ様と一緒に地獄の特訓とかいうのに連れて行ったものばかり思っていたのに。
疑問符を浮かべるアタシに、ダリアさんが伸びきった服の袖を口元に当ててニヤリと笑う。
「逃げてきたんですよぉー。あの執事さんはぁ、フレア様に比べれば幾分やりやすいですからねぇー」
「それにしたってどうしてこの部屋に……」
「自室に戻ったら一発でバレるじゃないですかー」
「……確かに」
け、結構考えてんのね。まあ、そもそも逃げてんじゃないわよって話かもしんないけど。
大人三人は優に寝られそうなサイズのベッドをゴロゴロと転がるダリアさんは、何故か視線だけはずっとアタシたちの方へと向けている。正確には、アタシとリラに。
確かこのヒトも響心魔装だったわね。それにしては、ディアナやグゥイさんと違ってものすごい自由な感じするけど。
……従者が唸ってる主の頭揺さぶるとかしないわよね、ふつう。




