金・二・再④
入室してきた女性の姿を見て、アタシとルナが「あっ」と口を開く。背後から、イルミオーネ様が「うげっ」と苦虫を嚙み潰したような声を上げたのが聞こえてきた。
こっちの方を振り返ったことで、扉には背を向けた状態であるリーの目が驚きで見開かれるのが分かった。
恐る恐る、といったような緩慢な速度で、ゆっくりとリーが扉の方へ視線を移していく。
そこにいたのは。
「……レイシー」
片目を隠す紫色の髪。きっちりと着こまれた執事さんを思わせる装いの衣装。
アタシたちがグゥイさんと呼ぶ響心魔装の、女性の姿がそこにあった。
フレア様のパートナーでもある彼女こそが、ダリアの言っていた、『代理の人』だったのだ。今日の特訓開始のためか、イルミオーネ様を呼びにやって来たみたい。
眼鏡の奥の金色の瞳が、玉座の女王サマに向けられた後、その横に集まっているアタシとルナ、リラに向けられ、グゥイさんが驚いたような顔つきになり、
「…………嘘」
自分の程近くで呼びかけた男性の姿を見た途端、明らかな驚愕の表情に塗り替わった。
抱えられていた、イルミオーネ様の特訓メニューと思われる紙束が腕から滑り落ち、石造りの床にバサバサと落ちる。
グゥイさんのこんなに驚いた顔を見るのは、初めてかもしれない。
今、自分が見ている光景が、そこに居る人のことが信じられない、といった表情だ。
口元をふるふると震わせ、呆然と立ち尽くすグゥイさんへと、見たこともないような優しい目を湛えたリーが、一歩踏み出した。
「儂だ、レイシー。分かるだろう?」
「……うそ、嘘です。だって、貴方は。貴方は、わたしが、この手で」
「ああ、あれは堪えた。だが、あれはお前の咎ではない。全ては心魂奏者の責であり……なにより、儂はこうして生きている」
「マス、ター……マスター!!」
足元に散乱する書類もそのままに、駆け出したグゥイさんがリーへと抱き着いた。両手を大きく広げたリーがそれを受け止め、遠目にも分かるほど力いっぱい抱き締める。
「会いたかった……! 会いたかったぞ、レイシー……!」
「わたしも、私もずっと、お会いしたかった……!」
大粒の涙を流すグゥイさんは、瞳を潤ませるリーの頬を両手で包み込むと――
「えっ」「きゃ……」「わーお」「おいおい場所を考えろよ……」
全力の抱擁に負けない程の、熱烈なキスを交わした。
いつの間にか、リーが抱えていた破天風来の遺体は床に転がっていた。
……名前も又聞きでしか知らない方だけれど、ちょっと同情しちゃうわ、あの扱い。
見ている方が熱くなる程に熱の籠ったやり取りに、ルナも思わず手で顔を隠している……指の隙間からバッチリ見えてるみたいだけど。
目の前で見せつけられた熱烈なシーンに意識が行っていたせいか……アタシは、自分の手を握る小さな手が、少しだけ力を強めたことに、気付かなかった。




