金・二・再③
そのとき、うんうん唸り始めてしまったイルミオーネ様の玉座の背もたれから、ぴょこんと翡翠色の猫耳が生えた。
「フレア様ならー、こないだガランゾに帰っちゃいましたよぉー」
「あなたは……」
「あるぇー? ユーハ君とかいないんですねぇー。初対面の方が多そうなので自己紹介をばぁ。ダリアでーすこちらの方の響心魔装でぇーす」
猫耳と同じ色のぼさぼさの髪を持つ少女が、背もたれに寄りかかりながら間延びした口調でそう告げた。ダルダルの袖に隠れた右手をこっちに振りつつ、左手で唸り続けるイルミオーネ様の頭をゆすっている……ソレ大丈夫? 悪化しない?
この人とは、先日ユーハとフレア様と一緒にこの城に乗り込んだ時が初見だった。ほとんどすれ違いみたいなものだったけど、流石に覚えてた。セーフ。
金髪の女王サマに代わって話を引き継いだ少女に、リーが変わらない威圧感のまま問いかける。
「この間とは、いつ頃の話だ」
「こないだはこないだですよー。んー……三日とか五日とかそんな感じですぅー」
主の頭を揺さぶる手を止め、玉座の背もたれに両手をだらんとぶら下げながらダリアが答える。イルミオーネ様とは違い、ダリアはリーの迫力に気圧されていないっぽい。
そんなマイペースさを見せる彼女によると、この間……数日前に、フレア様はトレイユを出て、自分の治める国であるガランゾに帰ってしまったと言う。
それじゃあ流石に、今さっき戻ったんじゃないか、っていうサンファ様については知らないかしらね……
「なんかー、トラブルっぽかったですよぉ。わたし達の鬼特訓もそこそこにしてー、代理の人を手配したと思ったらー、ものすごいスピードで帰っちゃいましたぁ」
「トラブル……?」
眉をへの字にして繰り返す。あのフレア様が焦るほどのトラブルって……結構ヤバいやつなんじゃない?
「……ならば、奴の帰還について把握している人間はいないということだな。ならいい。自分で探す」
ダリアの話をそこまで聞いたところで、苦々しい顔つきをしたリーが、吐き捨てるように呟いた。
「えっ!? イヤイヤちょっと待って! エーテルリンク中を探すつもりなの!?」
「儂はこの亡骸を葬った後、一人で動く。お前たちはあの小僧の言うようにすれば良かろう」
小脇に担いだままだった破天風来の遺体を一瞥すると、リーは玉座の間の出口に向き直った。そのまま足早にツカツカと歩み去って行く。
みるみるうちに小さくなる背中に向かってアタシは叫んだ。
「だから待ってってば! エーテルリンクの広さ分かってないでしょ! まずはフレア様とか、誰かに協力をお願いした方が絶対いいわよ!」
「そんな悠長な暇があるか。儂は今すぐにでも――」
呼び止めるアタシにリーが振り向いて反論した、そのときだった。
「おや、ここにおりましたか、イルミオーネ様」
玉座の間の扉が開き、一人の女性が入室してきた。
その声を聴き、リーの身体がビタッと硬直した。




