こんな相方は欲しくなかった⑩
祭賀氏のその問いには、言外に「同程度の力量を持つ協力者がいるというのに?」という意味も込められていた。そこを気にするのは当然だろう。
「心配いりませんよ。俺たちはサンファに一度勝っています。祭賀さんのお陰でソウルドライブを使えるようにもなりましたし、その時からずっと強くなってます。負けやしませんよ」
「…………」
自信満々、といった顔を張り付け、胸に手を当てる。アイリスがたまに見せるポーズを真似た虚勢だが……祭賀氏の表情は晴れない。
ダメ押しとばかりに、納得のための一言を捻りだす。
「ルナちゃんたちには、心配事を全部済ませてからライブに臨んで欲しいじゃないですか」
それは、俺の本心だった。
サンファに負けたりしない、なんて見え見えの発言は祭賀氏には見抜かれているかもしれない。
でも、この点においては俺の紛れもない本音であり、祭賀氏にも共通して理解してもらえる真実のはずだ。
俺の推しアイドルの父であり、アイドルとして育て上げたプロフェッショナルでもある男性は、またもしばらく俺の目を見つめた後……観念したように溜め息を吐いた。
「分かった、分かったよ。そうまで言うならもう何も言うまい……ただ、無茶はしないように。異世界の力を持つとはいえ、君はまだ瑠奈と同じ、学生なのだから。何かあったら頼りなさい。これは約束してくれるね?」
「はい、必ず」
「……では、吉報が聴けることを祈っているよ」
踵を返し、赤上プロデューサーを引き連れて公園を後にする。一人胸の内で安堵する俺の耳に、「ああいう目に弱い……」との声が聞こえたような気がする。
かくして、荒れ果てた公園から、俺とディアナ以外の人影が無くなる。
……第二関門、クリア、だよな。
あああああああめっちゃ緊張したあああ……
全身が脱力して、俺はその場にへたり込んでしまった。汚れることなど全く意識に無い。
今になって額から冷や汗が噴き出てくる。
「お疲れ様です、マスター」
「ホント、疲れちゃったよ……このままここで寝たい気分だ……」
労ってくれるディアナの言葉が唯一俺の苦労を癒してくれる……真実を分かち合える相棒がいるって大切なことだよな……ディアナがいなかったら俺の豆腐メンタルは保たなかったよマジで。
が、銀白の相棒に感謝の念が溢れそうになる直前、対照的に容赦ない声が飛んできた。
『バァカ、こんなとこで寝てみろ。朝にゃガヤが出来てあれこれ聞かれンぞ? さっさと帰れ帰れ!』
「お前、何でまだいるんだよ……」
檄を飛ばしてくる青年の幽霊……ハーシュノイズの言葉に、俺はげんなりしながら立ち上がった。




