二度あったことを三度はさせない⑧
「これは予想なんだけど、君が中の魔装と出会ったのは、霊山内のビル最上階にあった開かずの扉の向こう……じゃないかな?」
「……知ってんじゃん」
まーたこいつ、自分の中で答え出てんのに相手に話させようとしやがった。
最初に俺から特異点巡り承認の言質を取った時も同じやり口だったよな。
不満げに答えた俺に対し、サンファは得心の行った様子でうんうんと頷いている。
いや分かんないから。説明して。
「ああ失敬。あのビルはね、『月の魔導工房』という名で呼ばれた、魔導工房の内の一つでね。かつて呼び招いた召喚者に監修を依頼して、より強力な響心魔装を生産するために拵えたものなんだよ。……ただね」
そこでサンファはわざとらしく声を潜める。テレビ番組で怖い話を語る芸能人のようにどこか芝居めいた様子だ。
そんなあからさまな誘導に引っ掛かりはしないが、今の一言でわかったこともある。なるほど、あの建物はやはり、過去の召喚者の知識で造られていたのか。
まあそうでなきゃ雑居ビルの形なんておかしいものな。いやまあ、その人間の指示通りに、地球にあるものと遜色ないビルを建築できるこの世界の技術者も大概だけど。
「監修を依頼した召喚者は学者肌だったというか……まあ変わり者でね。わざわざ特異点の近くに建造したのも彼の指示なのさ。特異点のごく近くで研究することにより、魔素が濃い、時には魔晶の様子も確認できる、などなどの特殊環境下での進行を指示したというわけ。
ああそういえば、集まった技術者連中もどこかヒネた連中ばかりだったなあ」
「それで?」
「開設の指揮をした召喚者以降にも、数々の召喚者に関与してもらって研究を進行させたにもかかわらず、目覚ましい成果は出せなくてね。つい五年程前かな、とうとう工房が全面的に閉鎖されたんだよ」
こっそりと忍び込んだ人気のない雑居ビルの容貌を思い起こす。確かにあの荒廃した様子だと、それくらいの年数は経っていそうだ。もっと時間が経過していても納得していたかもしれない。
「当然その閉鎖時に、工房内の研究資料や生産途中の個体はあらかた運び出したんだけどね。どうしても一部屋だけ、内部の様子を確認できなかったのさ。何らかの魔法が施されていたのか、扉が開かなくてね」




