遺されたもの①
月神舞踏を纏った俺と、李が件の公園に到着したのは同時だった。
しかし。
「誰も、いない……?」
その公園には、人の姿が一つとして無かった。
掘り起こされた地面や、骨組みごとひっくり返ったブランコなどの遊具、薙ぎ倒された木々、といった惨状。周囲に今も薄っすらと漂う砂煙……それらの様子を見るに、間違いなくここで戦闘があったはずだ。それも、つい数分ほど前まで。
周囲には民家が立ち並ぶ、住宅街のど真ん中の公園なのだが、人払いの魔法でも使っていたのか、異常を察知した人がやって来た様子もない。
周囲を軽く見回すが、動く人影なども無い……ように見える。
「…………」
李が、目だけで中の様子を一瞥したのち、より詳細に調べるべく荒れ果てた公園内を物色し始めた。
それに続こうと一歩踏み出した俺の背に声が掛けられる。
「篠崎君!」
「あ、赤上さん!」
「すまない、祭賀さんへ連絡を入れていた間に、見失ってしまったんだ……!」
苦々しい表情で赤上プロデューサーが吐露する。
彼が言うにはこうだ。
丁度俺と李が戦い始めたあたりのタイミングで、赤上プロデューサーはサンファが移動しているところを発見した。
その後を尾けてこの公園まで辿り着くと、サンファが魔法陣を起動し始めた。止めるに止められず、祭賀氏に報告をしながら様子を窺っていると……そこに声のうるさい男性が一人空から現れ、サンファに殴り掛かり、戦闘が始まったのだと言う。
本当に、今から一分もしないくらい前までサンファはここにいた。乱入者である青年と、実に激しい戦いを繰り広げていたのだそうだ。
だが、つい一瞬、祭賀氏への連絡を取っている間に、戦闘の気配がピタリと消えた。
気付き、視線を携帯から公園へと戻した時には既に、二人の男の姿は無かったのだ、と。
眉尻を下げ、申し訳なさそうな表情で赤上プロデューサーが頭を下げる。
「本当にすまない、俺がもう少し気を配っていれば……」
「……仕方ないですよ。また探せばいいんですって。李も話を聞いてくれたことだし」
「ああ! あの男、君の仲間になったんだな! それは良かった!」
「いや仲間とはちょっと違うんですけど……」
こうして俺が赤上プロデューサーと話している間も李は、一心不乱といった様子で公園内の遊具などをひっくり返している。何か少しでもサンファの足取りを掴めるものは残っていないか、僅かな見落としも無いように、といった真剣な目つきだ。
「じゃあ、俺は祭賀さんたちをここに誘導して来る。本当に、すまない」
沈痛な面持ちで背を向けた赤上プロデューサーを見送る。申し訳なさそうにしたり李のことでテンションが上がったり……相変わらず感情の起伏が読めない人だな。




