二度あったことを三度はさせない⑦
「では、最後に一つだけいいかな」
眠気で下りてきた瞼が作る半目でサンファをじろりとねめつけると、常は胡散臭い笑顔のままの魔術師が、珍しくほんの少しだけ表情を引き締めた。
左手に俺の召喚時にも携えていた、ねじくり曲がった形状の杖を持ったまま腕を組んでいるが、空いている右手の人差し指をピンと立てる。
「中で眠っていた彼女のことだけど……あの子、響心魔装だね?」
「知ってるのか」
「そりゃあ知ってるとも! 響心魔装は我が国トレイユ原産の特攻武装なのだからね」
へぇ。それはディアナから聞いていなかった。
召喚者の持つ莫大な量の心素を効率よく変換し、魔晶個体などの魔法に対する攻撃手段や防御手段にするための魔法武装……ディアナから聞いたのはそれくらいだ。
他にももっと、響心魔装とはどういうものなのか詳しいことを聞きたかったが、そのタイミングでディアナがうつらうつらと舟を漕ぎ始めてしまったのだ。
彼女を起こさないように椅子からベッドへと運び――想像以上の軽さと、生まれて初めて女子をお姫様抱っこしたという二つの事実に驚きながら――ひと息ついたところで、この騒がしい魔術師がやって来たんだった。
つい数分前の出来事をなぞっていると、いつになくまじめな声音でサンファが続ける。
「実を言うとね、昨日君がこの城を飛び出す前に君に与えようとしていた武装こそが、響心魔装だったのさ。そのときは別の個体を用意していたんだけどね」
「……その口ぶりだと、俺が響心魔装と一緒に帰還してきたのが予定外だったみたいに聞こえるけど」
「――うん、君の言う通りさ。彼女のことは我が国の魔導工房には記録がない。全くデータがない個体なんだよ。君、彼女とはどこで出会ったんだい?」
でばいすふぁくとりーって、ディアナたち響心魔装を生み出す場所のことか。
その単語を聞いてようやく合点がいった。ディアナと出会ったあの雑居ビルは、その魔導工房とかいう施設の一つだったのだろう。
だが、そうだとすると今のサンファの発言が腑に落ちない。
なんで国が管理してる山の、その中にある工房出身のディアナを把握してないんだよ。




