新しい指針⑧
「だったら……もう一度だ! ディアナ! リラ!」
『はい!』『いえす……』
既に限界近くまで振り絞った心素を捻り出すべく、二人の相棒に呼びかけながら意識を両の剣に集中させる。
ソウルドライブは、発動するだけなら必ずしも夜桜モードを取る必要はない。
一撃の威力は劣るが、夜剣状態のディアナや、短剣状態のリラそれぞれでも放つことが出来るだろう。試してはいないが、月神舞踏の姿でも可能かもしれない。
両腕が押し込まれて潰される前に、このままもう一発食らわせてやる……!
李への抵抗に力を込めつつ、集中する心素が一定に達する。
夜桜モードで食らわせたさっきの一撃には比べるべくもないが、それでも、効果はあるはずだ。
「食らえっ……!」
両の手に握る黒と白の剣が、星の煌めきを放った、その時だった。
目の前で狂気を溢れさせる李の遥か後方。自由を取り戻した金髪の少女が、大きく口を開くのが見えた。
待って。
「伝えて、ユーハ! レイシーさんは、生きている、って!」
……アイリスの言葉の意味がすぐには理解出来ず、かなり切迫した状況ということも相まって、俺の頭にいくつものクエスチョンマークが浮かぶ。
レイシーさんって誰のことを言ってるんだ? いや、文脈から、李のパートナーのことなんだろうなっていうのは分かるけど、その人のことがなんでお前に分か――
待てよ。
アイリスの言葉と、俺の中に浮かんだ疑問。そしてたった今、李本人が叫んだ言葉が噛み合う。
レイシー。
その生死を知るアイリス。
美しい紫藤の髪。
目の前で火花が弾ける。
きっとこのひらめきは間違っていない。アイリスの言う通り、この事実を真に伝えることが出来れば、きっと李は俺たちのことをサンファの仲間じゃないと理解してくれる。
だけど……
「オ、オオ、ォォオオアアアアアア゛ア゛ア゛ァァァッッッ!!!!」
その最後のピースが、最も難関であることは疑いようもなかった。
もう、今の李には自我が残されているかどうかも分からない。
己の復讐心に、大切な存在を失った悲愴感に苛まれ、その莫大な心素に押し潰されようとしている。
このままでは、俺だけじゃない。李自身の命も危険だ。




