新しい指針⑦
敗北するのか?
……否。
忘れ去るのか?
否。
奴への憎しみを、彼女への想いを、捨てるのか?
「否」
否だ。
こんな結果は認めない。
そんな結末は許さない。
「否。否。否」
五十年越しの怒りを、憎しみを。こんなどこの誰とも知れぬ小僧に阻まれて良い筈が無い。
ここで倒れたら、彼女はどうなる。あの外道に身勝手にも操られ、己が意思に反する刃を向けてしまった彼女の無念は、誰が晴らす。
「否、否、否否否否否――」
「――断じて否ッッ!!!!!」
「こ、いつ……!?」
夜桜の十字を直撃した李の肉体が、あわや背中から地面に倒れ込むかという瞬間。同時に霧散したように消え失せた心素が再び一気に膨れ上がった。
李の目が異様なまでに吊り上がり、凝縮した心素がドス黒い血の涙となって流れ落ちる。
頬から零れ落ちた血涙は、地表に滴ると瞬時に蒸発し、再び周囲を侵食していく。
止めどなく溢れる血涙を流しながら、李が掴みかかってきた。
夜桜モードを解除。右手にリラ、左手に夜剣へと変じたディアナを握り、辛くも武人の手を防ぐ。
「ぐっ……!」
「オオオオオォォォォッッ!!!!」
しかし、力の差は歴然だった。
必死に全力を込めているというのに、一瞬の拮抗すらないまま、両腕が押し込まれていく。
「このままでは、レイシーは一人になる! 風化して、擦り減って、土に還って風に吹かれて跡には何も残らない!! 儂は、儂はそうなる前に彼女を……彼女のところに行かなければならないッ!!! もうこれ以上失わせない!! 奪わせない!!! 僅かでも取り戻しに行くのだ!!! レイシーの笑顔を、美しいシトウの髪を、麗しい黄金の瞳を……その名残を、少しでもッッ!!!!!」
正気を失ったように見えた、先程までをも上回る狂気に、対峙する俺の肌が粟立つ。抵抗するディアナ達も、言葉では言い表せない威圧感を受けているのが伝わってくる。
……そこまでの戦意を李に抱かせている心素が、今は逆に、李を苦しめている原因にしか見えなかった。
俺たちの攻撃は……ソウルドライブは効いているはずだ。
頑なに意思を曲げず、冷徹に攻め立ててきたあの武人が、こうも感情を露わにしているのだ。
多少なりとも、その堅固な心の防壁に綻びを生むことが出来たに違いない。




