新しい指針⑥
必殺の威力を持つと見るだけで分かる拳が迫る。その様子をコマ送りで捉えながら、しかし俺の胸中は穏やかだった。不思議と脅威に見えなかったのだ。
かつて何度か訪れたことのある感覚が蘇る。
勝利を確信する感覚。根拠のない自信を。
脳内で、この時まで協力してくれた人たちとのやり取りが、走馬燈のようにフラッシュバックする。
俺にずっと付き合ってくれたディアナと、リラ。
抗う手段を示してくれた祭賀氏。
そして何より……新しい指針を、俺の心に火を灯してくれた、ルナちゃん。
既に心素が集中している夜桜の短剣に、更に心の奥底から湧き立った心素が流れ込む。
そうだ。今こうして俺が李と対峙出来ているのは、ここまでの接戦を繰り広げていられるのは、当然俺一人の力によるものではない。
隣で支えてくれる相棒たちがいて、
迷った道行きを指し示す先輩がいて、
背中を押してくれる、アイドルがいる――!!
俺一人では、こんな心持ちで李と再戦するなど出来なかったに違いない。
そのための勇気は、周りにいるみんながくれたものだから。
だから。
『響心率、二五〇パーセントに到達――』
『状態……響心過剰に移行――』
『『――ソウルドライブ』』
脳内で、二人の少女の声が重なる。
右手に握る夜桜の短剣が大きく脈打ち、夜空に瞬く星の如き光を放つ。
……様々な人の勇気が合わさって、溶け合って、力をくれて出来た技。
だから、この技は――!
「――交錯する勇気、っだぁぁあああ!!!」
大声で心技名を叫ぶと共に、夜桜の短剣を十字に振り抜く。
描いた軌跡をなぞり、桜色で縁取られた夜色の波動が迸る。
交錯する勇気と名付けた夜桜の波動は、一瞬、李の放った絶後の威力持つ拳と衝突し。
「こ、んな――!?」
先日の特訓。イメージの敵影を蹴散らした時の再現の如く、十字の波動が李の拳撃を跳ね除け、その体に直撃した。




