新しい指針③
「邪魔はさせんぞッ!!」
憤怒に燃える心素。その大部分が、瞬時に李の右手に集う。
一瞬で悟った。次の瞬間、確実に俺の命を刈り取る威力の技が来る。
防御のため軌道上に短剣の刃を立てる。それと同時、凄まじい密度で練り上げられた心素秘める掌底が、烈火の如き速さで放たれた。
その掌が、先ほどとは逆に短剣を弾き飛ばし、更に迫り来る姿がスローモーションで見え。
「ユーハッ――!!」
遠方でアイリスの叫びが響き渡り。
そして李の掌底が、俺の胸の中央に直撃した。
口内いっぱいに鉄の味が充満する。耐えることも出来ず、天を仰ぎながら込み上げてきた血を吐き出す。ドクン、と全身を揺さぶる衝撃が瞬時に駆け巡り、目がぐるんと裏返った。
――が。
「――っこんチクショウがぁ!!」
「っ! 馬鹿な……!?」
俺は意識を手放さなかった。
仰向けに倒れ込みそうになった身体を、鋼の精神力と、あるのかないのか分からない腹筋で持ち起こし、地面を踏みしめる。
「……はぁ、はぁ……いややっぱりキツいな」
「貴様……!? 何だその馬鹿げた精神力は!! 先日の貴様であれば、間違いなく死んでいた筈の一撃だぞ……!」
李にとっては、俺が今の掌底を持ちこたえたことが心底予想外だったらしい。激昂してトんでいた理性が戻ってきている。
内心ヒヤヒヤしていたらしい相棒たちの言葉を脳内でなだめながら、俺は荒い呼吸のまま、口の端を吊り上げる。
「こんなとこで死んでられないのさ……今の俺はな……!」
「なんだと……?」
何がそこまで。そう問いかけたいのだろうと、李の目が訴えている。
ならば答えてやろう。耳をかっぽじってよーく聞きやがれ。
「俺にはな、準備があるのさ……今後開催予定の、『空に輝けエーテルリンク全国ツアーライブ』開催のためのな!!!」
「…………」
そう声高に叫んだ俺の前で、李が訝しそうな顔つきのまま固まっている。ふふん、あまりに壮大な理由故に声も出ないのか。
まあそうだろう。気持ちはよく分かる。
なんたって、ディアナとアイリスのアイドルユニット――俺がこっそり付けたユニット名が『空に輝け』なのだが――に、なんとルナちゃんもゲスト参戦し、エーテルリンクで全国ツアーをしようってんだからな!!!
あの河川敷でそれを聞いた時、様々なことが腑に落ちた。
ライブ後、ルナちゃんの楽屋から駐車場までの道中、ディアナ達三人のヒソヒソ話の趣旨はこのことだったのだ。
『これからお世話になる』と告げたルナちゃんの言葉の意味も同じだ。
俺は本職ではないが、一応はディアナ達のトレーナーもどきを務め、マリーネという舞台で一度はライブを開演させた身だ。ベインさんを始め、スプリングロードゥナやベロニカの王という人脈もある。ライブ開催にあたって協力できるところがあるだろう。




