新しい指針①
違う。
「む……!?」
俺の振り下ろした踵落としを、李が上段に構えた左腕で防御した。
そのまま着地した隙を狙い、風切り音が聞こえる程、猛烈な勢いの正拳が繰り出される。
しかし。
「っ!」
そう来るだろうと予想していた俺は、すかさずバック転で身を翻し、李から距離を取る。
自分でも思う。先日対峙した時とは見違える身のこなしで立ち会えていると。
李も言葉には出さないが、僅かに見開かれた目が、それを実感しているだろうことを伝えてくる。
李の動きが良く見える。
その予備動作から、次に繰り出される攻撃が予測できる。
空気の流れが、その場の気配が、加速された知覚で感じ取れる――
……ここだ!
もう何度訪れたかも分からない攻防の最中、俺は右手の短剣を翻した。
幾度となく突き出された正拳。刹那のタイミングで、その伸びきった右腕を狙った逆袈裟斬りを放つ。
あわや直撃と思われた瞬間、李が素早く身を引き、薄皮一枚斬ったのみに留まる。
しかし、前よりも格段に動けている。
ふぅ、と浅く息を吐き出し、リラたる短剣を構え直した。
あの時とは違う。ただ闇雲に、目の前の脅威を退けようとしていた四日前とは。
眼前で眉間の皴を深める老人が、百歳を越えた老体とは思えない鋭い目つきで睨みつけてくる。
「貴様……何者だ」
「篠崎悠葉。アイドルオタクの高校生さ」
「そんなことを訊いているのではない! 変わり身でも立てたか、主に似て卑劣な小僧め! その仮面の下を見せてみろ――!」
激怒の感情が溢れ出し、くわっと開かれた李の右手が俺の顔面に迫る。先日とあまりに動きのキレが違うと感じ、俺が別人ではないかとでも思っているらしい。
向かって来る骨ばった掌。それを、俺は大きく息を吸い込んでから、桜色の短剣で真正面から受け止めた。
「……変わり身なもんか。俺は正真正銘、四日前にあんたにぶちのめされた張本人だよ」
「そうか、心魂奏者に何らかの強化を施されたな……! そうまでして逃げおおせたいか、外道めが」
「それも違う」
「何だとっ……!?」
あんな奴と一緒にしないでもらいたいな。ていうか、心素の波長とかで四日前と同一人物だって分かってるだろうに。そこまで信じられないもんかね。
俺の胸の中で大きく脈打つこの感情は。
ルナちゃんが示してくれた新たな道は。
それだけの力を俺に与えてくれる、ってことだ!
ガギン!! とけたたましい音を立て、桜色の短剣が李の右手を弾く。
李は予想だにしていなかったのか、大きく仰け反りながら驚愕の表情を浮かべたが、即座に体勢を立て直した。




