二度あったことを三度はさせない⑥
「……で、なぜ心素の強い人間が必要かというと、魔晶を持つ魔物と戦闘になった際、単純にこっちの魔術師だと相性が悪い、と」
魔法を使う戦闘において、周囲から魔素を吸収して無尽蔵の魔力を要するというのは、そうそうひっくり返らないほどのアドバンテージらしい。
まあそうだよな。竜と最初に戦った時、間髪無く放たれる水球に俺は逃げることしかできなかったし。
で、そんな魔法というものは、術者の意思――心素により干渉を受けた魔素が起こす現象。
すなわち、心素には魔素に干渉する力がある。
魔術師が攻撃の魔法を放っても、大量の魔素を持つ魔晶個体に対して、効果は薄いか相殺されるか迎撃されて飲み込まれるかなどで容易に対策されてしまう。
一方、心素は魔素の多寡に寄らず対象に攻撃を通すことが出来る。
魔素を持たず、魔法の使えない地球人でも、心素を自在に使うことができれば、魔晶個体に対するこれ以上ない戦闘力になる、と。そういう事情だったかな。
ディアナ先生から教わった知識を余すことなく披露すると、なぜだかサンファが寂しそうな表情をしている。
「……こんなことまでよく知ってるね。っていうかさっきからユーハ君、僕に喋らせる気ないよね? 意図的に遮ってるよね?」
はいそうです。わざとです。
だってほっとくとまたコイツの容赦ないマシンガントークが始まるに決まってる。
話が弾むのではなく、一方的に弾け散るだけだって目に見えてるのに、そう何度も付き合ってられるか。
ようやくこちらから話題を持ち出せそうだったので、一つだけ言っとかなきゃいけないことを言っておく。
「そういえばアンタ、俺の荷物勝手に持ってったろ」
小隊長に聞いてもうわかってるんだぞ。返せよ。可及的速やかに。
「ああ、アレねーごめんごめん! いやぁ~やはりチキュウのものは何事も興味をそそられてしまってね! 後で持ってくるよ」
指摘を受けた魔術師は、大して悪びれた様子も見せず、常の軽薄な笑顔のまま答えた。
コイツ……ごめんと口にしておきながら一切申し訳ないと思ってねーな。しかもそれを隠す気がない。
もうこれ以上話しても時間の無駄だなー……何しに来たんだよコイツほんと。
「……もういい? 俺も少し休みたいんだけど」
ディアナが起きるまでルナちゃんのシングルをヘビロテして、自分なりにコール練習をしようと思っていたけど、サンファと話したせいでごっそりと体力を削られてしまった。
霊山の踏破と、首長竜との戦闘の疲れがじわじわと身体を蝕んできたようだ。瞼が徐々に重くなってきている。ていうかもう下りてきてる。あと何分も持ちそうにないなこりゃ……
というわけで、俺も可及的速やかに休息を取りたいんだけど。まだなんかあるの?




