金・一・囚⑥
ぴん、と空気が張り詰めるのが分かった。
次いで、その背中から透けて見えるくらいに膨れ上がる、今にもはち切れそうな勢いの憎悪に、張り詰めた空気が瞬時に沸騰する。
「……同じ召喚者とはいえ、奴の傀儡では所詮こんなものか」
ユーハに向けられていた鋭い眼光が、ゆらり、と影を残すような速度で動き、アタシを映し出す。
「そうまでして己が主人を隠したいと言うのなら、儂だけが約を通す義理も無い……」
骨ばった右手が、再びアタシの首に伸びる。
触れた途端に、掴まれた瞬間に、ねじ切れる。そんな自身の姿を想像し、ぎゅっと目をつぶる――
「させるかよ」
――聞き慣れた少年の声が、すぐ近くで聞こえる。
アタシの首に、あの硬い感触が、リーの手の感触が伝わってこない。
ゆっくりと、目を開く。
そこには、リーの伸ばす手を右手でしっかりと掴み、阻むユーハの背中があった。
「……貴様、いつの間に」
……アタシが目を閉じていた一瞬の内に移動したの? 音も無く、リーに気配を悟らせることも無く。
数日前、同じ相手と相対していたとは思えない動きに思わず戸惑う。
そしてそれと同時に、かつてエーテルリンクで何度か感じたことのある感覚が、じわりと胸の内側にこみ上げてくるのが分かった。
大丈夫。きっとなんとかなる。上手く言えないけれど、そんな根拠のない確信が。
「サンファのことは、その内きっと捕まえてみせる。だからそれまで待て……って言っても聞かないんだろうな」
「虚言も大概にしておけ。そんな言葉、誰が信じる」
「だと思ったよ……だから!」
ギリギリ、という衣擦れの音が聞こえる。ユーハが握り締め、行く手を阻んでいる右手を、リーが力任せに押し込もうとしているのだ。
膂力は圧倒的にリーの方が上回っている。ユーハの手が徐々に押し戻されているのが分かった。
その時、フリーだったユーハの左手が閃いた。
下方から一閃、桜色の短剣を握り締めた左手が、二人の手が交差する位置を通る軌跡で頭上へ振り抜かれる。流石のリーも伸ばしていた右手を引き、後ろへ向かって一歩後ずさった。
ユーハは、夜空に向けて真っ直ぐ伸ばした左手を戻しながら、桜色の短剣……リラを右手に持ち替え、膝を屈める。
「悪いけど、まずは大人しくなってもらう。そんでもって、俺たちがあの野郎の味方なんかじゃないって、信じてもらうぞ!」
「こうなれば、力尽くで奴の居場所を吐かせてやる……小僧が!」




