金・一・囚④
「レイシーが儂の流した血の上に倒れ伏すと同時、心魂奏者が勝利を確信して転移魔法の発動に入った。儂はそこを狙い、飛び掛かった。虚を突かれた奴は慌てふためいた様子だったが……」
「……倒すには至らず、チキュウに強制転移させられた?」
「ああ、そうだ」
アタシが言葉を引き継いだのを最後に、リーは口を閉じて黙り込んだ。話は終わった、ということだろう。
口数が少ない、なんて自分で言っていた割に結構な長話だったような気がするが、そこにはツッコまないで置いておく。きっとそれだけ、レイシー、さん? に対するリーの想いが強いって言うことなんでしょうね。
……それよりも、アタシには気になってしょうがないところがある。
今の話、前にも聞いたことがある、わよね。
別の人の口から。別の人の視点で。
リーの口から語られた、パートナーの人柄。エーテルエンドでサンファ様と対峙したときの流れ……アタシが以前聞いた話と、あの人のことと、限りなく一致してる。
もしも、この予想が正しければ、リーは大きな誤解をしていることに――
「……ねぇ、もしも、もしもだけど、そのレイシーさんが今も生きているって言ったら――」
「黙れ」
言いかけたアタシの声は、そこで途切れた。
瞬きよりも早く近付いてきたリーの右手が、首を絞めつけている。呼吸が出来るギリギリのところで、しかし声が出せなくなるような絶妙な力の込め方で制されている。
「……ぁ、ぐ」
「彼女を侮辱するな。冗談でもそんな発言は許さん。圧し折られたくなければ、もう黙っていろ」
アタシの叫びを制した時なんか比べ物にならないくらい冷え切った声音で、リーが言い放つ。
「ゲ、ホッ! ゴホ!」
ぐ! と一際強く握り締められたあと、解放される。アタシが息を整えて顔を上げた時にはもう、再びリーの気配は闇に溶けて分からなくなっていた。
……予想はしてたけど、こうまで徹底的に聞き入れてもらえないとヘコむわね。
ていうか、アタシの喉、大丈夫? 前にフレア様にも、ぐってされてるんだけど。今後のアイドル活動に影響出ないわよね。
軽く何度か咳き込み、小声で喉の調子を確認する……うん、大丈夫そう。
一応人質だものね。そこまで手荒にはしないわよね……さっきの言葉を強引に言い切っていたら、躊躇なく潰していたでしょうけど。
さて、幸か不幸か、一つリーの真相を暴く結果になった。
どうにかしてあの人のことを伝えることが出来れば、この間のようなことにはならないハズ。
……明日、ユーハたちと再会した、その時が勝負ね。
アタシは、そのどこかにリーを潜ませる久遠の闇を一瞥し、一人気を引き締めた。




