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金・一・囚③

「彼女の名はレイシー。儂の相棒だった響心魔装(シンクロ・デバイス)だ」


暗闇にぼんやりと浮かぶリーの影が、重々しい口調で語り始める。アタシは相槌を打つことすらせず、ただ沈黙を保って耳を傾けた――






「儂があの心魂奏者の身勝手な召喚のために、誰一人信じられない環境に置かれた中、唯一信頼を寄せることの出来た存在であり、異界における旅に最後まで寄り添ってくれた、かけがえのないパートナーだった」


「案内された魔導工房で出会った。当初は、あの外道の紹介故、必ず裏があると警戒していた……しかし、違った。彼女自身は、ただ純粋で、生真面目な一人の女性だったのだ」


響心(シンクロ)率とやらを上げる鍛錬の日々。彼女は毎日同じ時間に儂を起こしにきた。毎朝、ズレの無いノックが二回鳴る。扉を開くと、西洋の使用人が着るような服を緩みなく着込んだ彼女が出迎える。(うやうや)しく腰を折って挨拶する彼女に答え、外に出る……そんな日々が三月(みつき)ほど続いた」


「鍛錬を終え、旅に出てからも、彼女が朝に儂を起こす習慣は変わらなかった。町で宿に泊まろうとも、森の中で野宿しようとも」


「道中、儂と彼女の間で交わされた言葉はごく少ないものだった。儂は口数が多い方ではない。騒がしいのも好かん。彼女は、そんな儂の胸の内を読んだかのように、物静かに付き従ってくれた」


「その中で、彼女が儂を嵌めようとする素振りを見せたことは唯の一度も無かった。見たこともない妖怪変化との戦闘中、慣れない相手との戦いで儂の余裕が無いような場面でさえ、だ。そしてそれは……あの最後の時まで、同じだった」


「深いシトウ色の髪を覚えている。その髪の切れ間から見える黄金(こがね)の瞳が、あたかも曇天から覗く日輪の如き美しさを放つ双眸が、大きく見開かれたのを覚えている。初めは見慣れなかった兎の耳が、自身の行いを信じられないとばかりに逆立っていたのを覚えている」


「レイシーが、儂の胸を、その髪と同じ色の槍で貫いた瞬間を、覚えている」


「その時の儂は既に、彼女を無二の伴侶として認識していた。多くの強敵を、苦難を共に越えたかけがえの無い相手であると……レイシーという名は、三つ目の魔晶を回収した折に、儂が彼女に提案した名だ。そう呼ぶことを許してはくれぬかと」


「彼女は悩む素振りも無く、ただ小指の先ほどに僅かな笑みを浮かべ、頷いてくれた。それだけでその胸中を知るには充分だった」


「それ故に、警戒していなかったのだ。レイシーが儂を害するなどということを」


「覚えているとも。儂が深々と貫かれた己の実情に面食らっている中、恍惚とした表情を浮かべる、あの外道(サンファ)の姿を」


「……そして、儂の返り血を全身に浴び、その事実に耐えきれなくなったレイシーが、悲痛な叫びをあげるのを」

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