金・一・囚②
冷静な声音の中に、ほんの少しだけ威圧感を交えた声で、リーが忠告する。
……それくらいはアタシにだって分かる。あの僅かな交戦で、このヒトとの絶望的とも言える戦闘力の差は、嫌でも実感させられたもの。
アタシは腹ばいになると、芋虫のように身体を縮めて、手を使わずに上半身を起こした。
後ろ手に縛られてはいるようだけれど、そこからさらに壁や柱に繋がれているわけではないみたいだ。その気になれば、立ち上がって自由に歩くくらいは出来そう。
仮に抵抗されたとしても、己の実力なら制圧できるという自信の表れなんでしょうね。本来ならば、こんな手錠染みた拘束さえ必要ないかもしれない。
そう。抵抗で暴れるのは無意味。
でも、今のアタシにもまだ出来ることはある。
「……ここは、どこなの?」
「答える義務はない」
「アタシをどうするつもりなの?」
「たった今説明しただろう」
「さっきまで何をしていたの? 瞑想?」
「……答える義務は無い」
「どうしてそんなに強いの? アタシたちの世界では見ない拳法よね。いつから学んでいるの?」
「答える義務は無いと……」
「お腹空いてない? アタシは大丈夫だけど。ずっと起きていたんでしょ? 飲まず食わずだと身体に良くないわよ」
「煩いぞ! 少し黙っていられないのか!」
目覚めるや否や矢継ぎ早に繰り出される問いかけに、流石のリーも耐えかねたみたい……狙い通りね。てへ。
気配さえ感じさせなかったさっきとは裏腹に、静かな室内に怒号を震わせている。
「じゃあ一個で良いから質問に答えてよ。そしたら明日まで黙ってるから」
「なんだ!」
「あなたの伴侶、って、どんなヒトだったの?」
苛立ちに満ちて荒れた空気が、一瞬で冷たさを取り戻した。
それは、今アタシが発した言葉が、リーの核心に触れる質問だから。
覚えてる。確かにリーは言っていた。サンファ様のことを恨んでいるのは……自分と伴侶を引き離したからだ、って。
伴侶って確か、パートナーのことよね。恋愛的な意味の、人生を共に歩む相手のこと。
リーは、頑なにアタシたちもサンファ様の仲間だと信じて疑わなかった。きっと今も疑ってない。
その凝り固まった意思を少しでも崩す手掛かりになれば。
「……いいだろう、話してやる。お前に繋がっているやもしれぬ、心魂奏者に向けた恨みも込めて、な」
重々しい口を開いたリーの言葉は、静かな憤怒に満ちていた。頬を冷や汗が伝うけれど、アタシは深く頷く。
全くの暗闇で、相手の顔色を窺う知ることなんて出来るはずもないのだけれど……アタシが首を縦に振ったことが見えていたかのようなタイミングで、リーは語り始めた。




