金・一・囚①
「……う、ん……?」
目を開いて最初に見えたのは、薄く埃をかぶった地面だった。
冷たくて硬い感触が頬に伝わり、徐々に意識がはっきりとしていく。
ここは……?
どうやら、どこかの建物の床に転がされているらしい。
部屋に明かりは無く、夜なのか窓が無いのか、周囲は暗闇に満ちている。物音も聞こえず、世界に一人取り残されたかのような感覚に陥る。
身体を起こすべく、後ろに回っている両手を地面に付こうとして。
ガチッ。
「えっ?」
両手が、手首の辺りでガチガチに縛られていることに気付いた。
「な、なによコレ!?」
縄なのか鎖なのか分からないが、相当強烈に巻かれている。器用なことに手首そのものを締め付けてはいないらしく痛みは無い。だけど、抜け出す隙間は一切なく、思いっきり力を込めてみてもまるで動きそうにない。
何で縛られてんの、っていうか、ここドコよ!? アタシ何してんの!?
「ユーハ! ディアナ! ルナ――」
「煩いぞ」
辺りの様子を知れないアタシの闇雲な叫びを、地面より冷たい声が制する。
それまで人の気配など感じられなかった暗闇の一角に、何者かの輪郭が唐突に浮かび上がった。
その声を聞き間違える筈もない。アタシの脳裏に、気を失う前の出来事が瞬時にフラッシュバックする。
「リー……ジュンジエ……!」
「大人しくしていろ。明日、あの外道の身柄を預かるまではな」
あと一日眠っていればよかったものを、と至極残念そうな声音で呟いた影に、アタシは戸惑いながらも問いかける。
「ど、どういうことよ……?」
「お前は人質なのだ。卑怯にも逃げた心魂奏者を、小僧に捕えさせ……お前と引き換えにこちらに引き渡すためのな」
そう告げた老人の影が、アタシが気を失ってからあの駐車場で起こったことを淡々と述べる。
リラも、ユーハも易々と撃退されてしまったこと。その隙を突いたサンファ様が姿を消したこと。
一人残ったディアナに、ユーハ宛ての伝言を残したこと。
その伝言というのが、消え失せたサンファ様を捕まえ、リーへ引き渡すこと。
そして、その命令を果たさせるための人質が……アタシ。
ズキ、と、最後にリーの攻撃を食らった胸が痛みを訴えてくる。
単純なダメージによる痛みだけではない。きっと迷惑をかけてしまっているだろうことへの罪悪感が、別の痛みで胸を締め付けていた。
「念のために言っておくが、妙なことは考えるなよ。抵抗したところで無駄なことは分かっている筈だ」




