完成形は分かるけど到達までが不明なタイプの修行パート⑥
予期せぬ来訪に大声を上げて驚いた俺を制するように、ルナちゃんは細い人差し指を口元に当てる。
やっべ、ディアナ達起こしちゃったか!?
大慌てで口を覆い、草むらで眠りこける少女らの様子を窺う。
……どうやら起こさなくて済んだらしい。ホッと胸を撫で下ろす――
「よかったぁ……起こさないように、少し離れたところで話そっか」
「アッハイ」
――かと思ったらすぐに再鼓動を始め裏返りそうになる! 耳元で囁かないでください死んでしまいますッ!
一瞬で固まった身体をギクシャクと動かし、見るからにぎこちない動作で俺は、ルナちゃんが先行する橋桁の下へと戻った。
「はいコレ、差し入れ。良かったら食べてね」
「あ、ありがと……うございます」
ルナちゃんが手渡してくれた手提げ袋には、魔法瓶とランチパックと思われる竹製の籠が入っていた。も、もしやこれはご飯でしょうか。まさかとは思いますがお手製なんでしょうか。ヤバいぞそれは比喩抜きで尊死するかもしれない。
「と、ところで、どうしてここに?」
あわや倒れそうになるも、推しアイドルの前でそんな姿を晒すわけにはいかない! と鋼の精神で持ち直した俺は、どうにかそんな会話を捻り出した。
「お父さんがね、『全然事務所に顔を見せないから、声をかけてやってくれ』って言っててね。私も、今日やっと時間が取れたから」
この河川敷は、ルナちゃんの所属事務所にして祭賀氏の経営する芸能事務所、シロカゼプロダクション社屋の程近くにあり、『休憩や仮眠の際には事務所の施設を使用していい』との許可を頂いていたのだ。
が……シャワーとかトイレとかの最低限の用事以外ではほとんど行ってなかったうえ、祭賀氏自身も多忙故に、先日の訪問以降は顔を合わせていなかった。
スケジュールをどうにか調整して予定を開け、わざわざ来てくれたらしい……俺は深々と頭を下げてルナちゃんに感謝の念を告げ、この場に居ない祭賀氏にも胸の内で謝罪する。
「そ、そんなに頭を下げないで! ……ディーちゃんの時と違って、私には、これくらいしかお手伝い出来ないから」
「それって……」
李との戦闘を終え、俺が気絶から回復した時も同じことを言っていたような。
そういえば、祭賀氏も言っていた。ルナちゃん自身に聞けって。
今が、その機会なのかもしれない。
「教えてもらいたいことがあるんですけど……ルナちゃんの、力。俺とディアナを助けた力について」
姿勢を正した俺は、落ち着かない心拍数を強引に押し殺し、正面から栗色の髪の少女を見据えた。




