完成形は分かるけど到達までが不明なタイプの修行パート④
『マスター、あちらを』
「ん? ……あ、祭賀さん?」
ディアナの促す方向を見ると、河川敷の橋桁の下、こちらに向かって手を振る祭賀氏の姿があった。
川の上空で夜色の魔法陣を蹴り、地面を擦りながら着地。月神舞踏と短剣の姿だった相棒たちも元の姿に戻り、俺は祭賀さんへと駆け寄った。
「やっているね。この時間まで、休みなしで続けていたのかね?」
「え……あ、そう、ですね、ハイ」
言われて気付く。宵入り際から始めた修行だが、いつの間にか空が白んできていた。
仮想敵で用意したイメージの李との戦闘に集中し過ぎたかもしれない。おかげで月神舞踏状態での短剣の取り回しにはだいぶ慣れてきたと思うけど。
「首尾はどうだ?」
「まだ、手探りの状態ですね……そちらの方は?」
俺の問い返しに、祭賀氏は眉尻を下げて首を横に振る。
李との最終戦闘という万一の事態に備え俺たちが修行をしている一方、祭賀氏と赤上プロデューサーにはサンファの行方を捜してもらっていた。しかしその表情では、今のところ成果は出ていないらしい。
「どうやら、私の覚えているサンファよりも、魔法技術が向上しているようだ……あの駐車場から出た先には、まるで魔素の痕跡が残っていない。それならば人海戦術だと、伝手を頼って方々でそれらしい人物を見かけたら、連絡を貰えるようにはしているのだが」
あのクソイケメン魔術師が姿をくらましてから数時間が経過しているが、今のところ祭賀氏の元に目撃情報は届いていないそうだ。
そう。李との戦闘はあくまで最終手段。サンファを確保してアイリスと引き換えにするのが最も望ましいパターンではあるのだが……その足取りを追うことすら難しい現状では、そうもいかないだろう。
「私は引き続き奴の行方を追おう。焚きつけておいて何なんだが、君も、無理はし過ぎないように」
「寝る間も惜しんで励みます」
「……そうか。ではまた」
建前の奥の本音を見透かしたうえで敢えて言及しないような、そんな顔で祭賀氏は笑い、踵を返した。その背が堤防の向こうに見えなくなるまで見送ってから、俺は二人の相棒に向き直る。
「やはり、サンファ氏の確保は難しそうですね」
「ああ。だから俺たちは、どうなってもアイリスを助け出せるように、頑張ろう」
「……やるぞー……おー……!」




