コンクリ<鉄<<<<<拳くらい強い⑦
目の前で仲間を連れ去られたことと、連れ去った相手に対して手も足も出なかったことが合わさり、特大の無力感となって俺を襲う。
その自責の念を振り払うのではなく、腹の内に飲み込むかのように奥歯を噛み締め、俺はパイプ椅子の簡易ベッドから立ち上がった。
「ダ、ダメだよまだ起きちゃ!」
「ディアナ」
俺を気遣ってくれるルナちゃんの方を見ながら、隣にいる相棒を一瞥もせずに呼びかける。
その一言で俺の考えを察してくれたらしい銀白の少女は、一瞬躊躇ったように息を呑んだが、「はい」と意を決した声音で応じ、視界が覚束ない俺の右手を支えてくれる。
リラもまた、押さえ込まれていたルナちゃんの腕の中を抜け出し、俺の腹にしがみついて来た。
「……ますたー……」
「ああ。行こう」
「……えっ!? 待って待って、何言ってるの!? ひょっとして、これからすぐにアーちゃんのところに行こうって言ってる!?」
ルナちゃんが叫んだ。何を言っているのか理解できない! という胸中が如実に表れている様子だ。
俺はゆっくりと頷いて答える。
「はい。行ってきます」
「無茶だよ! さっき……さっき、あんなにボロボロにされたじゃない!」
「それは、分かってる。でも……このまま黙っているわけにはいかないんです」
ルナちゃんの言っていることは、正しい。
先の戦闘、急襲だったとはいえ、俺たちのコンディションは万全だった。それに対して、今の俺は歩く時にも響く首の痛みに、腹部に残る重い鈍痛が明らかに行動を妨げている。
リラも平静を装ってはいるが、俺に歩み寄る際、どこか腰が抜けていた。おそらく、李の攻撃を受けその身を構成する刃の一部が砕けたことで、少なくないダメージが身体に残っているのだ。
無謀なのは百も承知だ。
でも、だからこそ、向こうも俺たちがこのタイミングで追いかけてくるなんて思っていないはず。
エーテルリンクでサンファを追いかけた時のことを思い出す。
「大丈夫です。きっと」
「……ダメ。ダメだよ絶対! 今回はディーちゃんの時とは違う! 私も助けてあげられないんだから!」
ルナちゃんにそう微笑むも、彼女には『我が身を投げうってでも』というような悲壮な決意を秘めた笑顔に見えたらしい。安心させるつもりが、逆に一層の覚悟を持って道を阻まれてしまう。
どう説得したものか。次の言葉を慎重に選ばないといけないな、と頭を抱えたときだった。
「瑠奈の言う通りだ、篠崎君。私も賛成できない」
「……祭賀さん」
俺たちが言い争うのが聞こえてしまったのだろうか。楽屋のドアから、祭賀氏と赤上プロデューサーの二人が、難しい表情を湛えて姿を現した。




