コンクリ<鉄<<<<<拳くらい強い⑥
――三日だ
――それまでにあの魔術師の身柄を押さえよ
「――はっ!? いい゛、っ痛……!」
朧げな意識の中で耳が聞き取った声が、唐突な覚醒を齎した。
勢いのままに身体を起こすと同時、首から背中にかけて強い痛みが走り、思わず患部を押さえて呻き声を上げてしまう。
「マスター! よかった、お目覚めになられたのですね……!」
「ディアナ……」
傍らには、心労がその顔色に表れている銀白の少女の姿があった。
未だ鈍痛を訴えてくる首筋を押さえたまま、朧げな視界を細めて周囲を見回す。
俺はどうやら、先ほどまでいたルナちゃんの楽屋まで運び込まれたようだった。やや手狭な室内にパイプ椅子を突き合わせて、横になれる簡易なスペースが確保されており、そこに寝ていたらしい。
「ディアナ。俺はどれくらい気を失ってた?」
「……マスターがリーの攻撃を最後に受けてから、三十分ほどが経過しています。今、部屋の外で、祭賀様と赤上様が、駆け付けたケイサツの方に事情を説明しておられるところです」
そうか、もうそんなに……。
ディアナの説明に、つと楽屋入口と思われるほうに視線を向ける。眼鏡が無いせいでまるで判然としないが、入口らしき方向から人の話し声が聞こえてくるような気がした。
と思った矢先、そのドアが開かれ、聞き慣れた声が飛び込んでくる。
「あっ、ゆ、悠葉くん起きた!? ゴメンなさい! いきなりなんだけどこの子止めて!?」
どれだけのド近眼だろうが関係ない、こと俺に限って聞き間違えようはずもない、推しアイドルルナちゃんその人の声だ。
雲の上の存在とも思っていた彼女に名前を呼ばれた事実に一瞬放心しそうになったが、手放しで飛び立とうとした俺の意識を、ルナちゃんの訴えが引き止める。
何やら、彼女の手元で忙しなく動く姿があるような。
「……離してー……!」
「え、リラか?」
不明瞭な視界に写ったのは、ふわふわとした桜色の髪を持つ少女の姿だった。
短剣から幼い少女の姿となっているリラは、どこか緩慢ではありながらもジタバタともがき、その腕を押さえ込むルナちゃんの腕の中から脱出しようとしている様子だ。
「この子、さっき目が覚めてから、今すぐにアーちゃんを助けるって言って、聞かなくて……」
「っ!」
「……アイリス」
ルナちゃんの言葉に、隣の相棒が息を呑んだのが分かった。
……やはり、あれは夢じゃなかったのか。
がむしゃらに突っ込んだ俺が痛烈なカウンターを受け、朦朧としていたとき。倒れ込んだ俺のすぐそばに横たわっていた金髪の少女を、彼の武人……李が連れ、姿を消したことは。




