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独白⑭

彼の魔術師の気配がこの場から消え失せると、そのことに業を煮やしたリーが、力強く足元を踏みつける。その衝撃で一瞬、数階建ての建物全体が大きく揺れ動き、私たちの身をも震わせた。


遠目にも分かる苛立ちが武人の背に透けて見えたが、深呼吸でもしたのか、怒っていた肩がゆっくりと鎮まり、落ち着きを取り戻す。


音も無く振り向いた表情には、苛立ちの感情こそあれ、その激しさは鳴りを潜めている……ように見えた。


眉間に深い皴を刻んだ顔つきのまま、カツカツと私たちの――倒れ伏すマスターとアイリス様の方に、歩み寄ってくる。


私は夜色の短剣を構え、二人を庇う様にリーの前に立ちはだかった。


「と、止まりなさい! これ以上私たちを痛めつけても、あの魔術師は戻って来はしません!」


「そんなことは言われるまでもない。しかし、貴様らがあの外道の傀儡である以上、何らかのパス(繋がり)があるに違いない。そこから彼奴の足取りが掴めるやもしれぬ」


この人は……!

あれだけマスターが訴えたのに、当の神位魔術師自身が否定したと言うのに尚、私たちのことを、サンファ氏の部下だと思っている!


何故そうまで頑ななのか。私たちの話を、聞き入れようとする姿勢すら見せないのはどうしてなのか。

そう口に出して問い詰めたい気持ちでいっぱいだったが、ゆっくりと歩み寄る老人の気迫には、『最早何者をも信頼しない』という、未だかつて類を見ない程凝り固まった意志が、ありありと浮かび上がっていた。


その心素(エナ)の、ある種純粋に一点へと収束される意志が、全く似ても似つかないはずなのに、何故か一瞬、ユーハ様(マスター)の心素の在り方と重なる。


虚構の影を首を振って振り払ったと同時、私の隣で、聞き覚えのある男性の声が響いた。


「そこまでだ、李。今警察と、この施設の警備の者に連絡を取った。もう何分もしないうちに人が駆けつける」


「さ、祭賀様!」


手に持ったすまーとほんを高く掲げ、リーを牽制するその人は、紛れもなく白風祭賀様その人だった。

祭賀様の言葉に警戒したのか、老人が私たちの手前数メートルのところで立ち止まる。


「遅くなってすまない、ディアナ君。だが、もう大丈夫だ」


「い、いえ、そんな……ですが、一体いつの間に連絡を?」


「……貴様らの動きも注視していた筈だがな」


眉間の皴をより一層深くし、リーが祭賀氏へ問いかける。

マスターやアイリス様との激しい攻防の中、戦闘とは離れた場所にいた祭賀様にも気を配っていたなんて……一体、どこまでこの人は常人離れした戦闘力を有しているのだろうか。


私が一人冷や汗を浮かべている隣で、震えあがりそうな気迫を受けても尚動じずに、祭賀様が答える。


「生憎と、頼りになる部下がいるものでね」

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