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独白⑬

「何が可笑しい?」


隠そうともしない笑みを浮かべる魔術師に、リーが不快感を露わにする。


「……いやいやいや、よもやこんな形で千載一遇のチャンスが訪れるとは……思っても見なかったのでねッ!」


やや俯いていた魔術師が、カッと目を見開いて顔を上げる。

そしてそれと同時に、自身の首を囲う白磁の首輪に親指を突き立てた。


首輪を瞬時に薄緑色の魔法陣が走り、その上を覆い隠すかのように、黒と赤を混ぜ合わせたような邪悪な魔素(マナ)が迸る。


「そんなっ……!?」


今のサンファ氏は魔法を使えない筈。思わず戸惑う私の前で、いち早くリーがサンファ氏へ向かって手を伸ばした。


しかし伸ばされた手は、一瞬の内に姿をかき消したサンファ氏の残像を追い、空を掴むに止まる。


「ハハハハハッ! 礼を言うよリージュンジエ! キミのお陰で、ようやく僕を縛るこの首輪ともオサラバ出来る!!」


どこからか、そんな高らかな叫びが聞こえてくる。忙しなく周囲を見回すが、声の主であるサンファ氏の姿は影も形も見えない。


私の魔素探知の感覚にも引っかからない。何らかの隠蔽魔法を使っているのか。


「一体どうやって……貴方の行動は、首輪で制限されていたのに!」


「おいおい、まさか僕が本心までキミらに屈したと、本気で思っていたのかい? ずっと機会を狙っていたに決まっているじゃないか! 三日ほどもあれば、いかにそこの男が発明した心因魔法陣であっても、干渉出来るくらいに構造を見抜くのはワケないんだよ!」


私同様、どこからともなく響いてくる魔術師の愉悦混じりの声を、きょろきょろと追いかけている祭賀様が見える。ルナ様も祭賀様も、やはりサンファ氏の姿を見つけることは出来ていないようだ。


ただ一人、リーだけが静かにその場で佇み、微動だにせずいた。


「とはいえ! そんなことをしたら、たちまちそこの出来損ない(アイリス)逸脱者(ユーハ)に邪魔されることは明白だった! だからずっと待っていたのさ……この首輪を制御できる二人が僕から注意を放す、その瞬間をね!!」


「……逃げるのか卑怯者。お前の傀儡どもを惨たらしく嬲ってもいいんだぞ」


「慣れない脅迫はよしたまえよ、リージュンジエ。僕がそんなものを気にかけるような人間じゃないって分かっているだろうに!」 


冷徹極まりないリーの発言は、間違いなく有言実行を確信させるものだったが、サンファはそんな揺さぶりにもまるで動じない。


「……ではね。哀れで惨めなチキュウ人諸君! もう会うことも無いだろう!」


言い逃げするかのようなその言葉を最後に、駐車場内に僅かに漂っていた魔術師の気配が、完全に消え失せた。

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